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「玄関の外まで、声が響いています」ひとり暮らしで言えずにいた私。だが、名前の出ない1枚の紙が救った瞬間

「玄関の外まで、声が響いています」ひとり暮らしで言えずにいた私。だが、名前の出ない1枚の紙が救った瞬間
壁の向こうの笑い声
ひとり暮らしをはじめて三か月、隣の部屋から話し声が聞こえるようになりました。
始まるのは、決まって夜の十一時過ぎです。何人かの笑い声と、床に物を置く音が、言葉の切れ目まで届きます。
週に二度か三度、それが二時近くまで続きます。
早番の前の日は、目を閉じたまま天井を見ていました。
インターホンを押しに行こうと思ったことは、何度もあります。廊下まで出て、扉の前で立ち止まり、結局そのまま部屋へ戻りました。
(女がひとりで住んでいると、知られたくない)
チェーンを掛け直すたび、そう思いました。
押せなかった最後の一桁
管理会社の番号は、冷蔵庫に貼ってありました。
受話器を持ち上げて、途中で戻したことが何度もあります。苦情を言ったのが私だと伝われば、隣の扉はすぐそこです。
友人に話すと、こう言われました。
「言わなきゃ何も変わらないよ」
「言った次の日から、あの人と廊下ですれ違うんだよ」
友人は黙りました。ひとりで住むのは、そういうことです。
エレベーターホールの紙
月が変わった朝、掲示板に紙が一枚、貼られていました。
管理会社の名前が入った、全戸あての用紙です。
角を四か所、テープで留めてあります。
「玄関の外まで、声が響いています」
その一文からはじまっていました。深夜の話し声と物音について複数のご相談をいただいている、
二十二時以降はご配慮をお願いしたい。どの部屋の話かも、誰が言ったのかも、どこにも書いてありません。
紙の前で、しばらく動けませんでした。私が言えずにいたことが、名前のつかない言葉になって貼られています。
その夜、壁の向こうは静かでした。
次の週も、その次も。十一時を過ぎても、笑い声が壁を通ってくることはありません。
数日後、ごみ置き場で一緒になりました。先に口を開いたのは、隣の方でした。
「あの紙、うちのことですよね」
「…分かりません」
「壁が、あんなに響くと思ってなくて」
友人が集まると、つい声が大きくなるのだと言っていました。責める言葉も許す言葉も出てきません。私は袋を置いて、頭を下げました。
それから、階段ですれ違うと向こうから会釈をされます。夜は静かなままです。
いまも、隣に誰かが来ている気配はします。けれど、声が壁を越えてくることはありません。名前の出ない紙が一枚あっただけで、私は誰にも知られずに済みました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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