Share
「これ、うちはもう使わないから」色鉛筆をくれたご近所さん。だが、挨拶に伺った日に見せた別の顔に絶句

「これ、うちはもう使わないから」色鉛筆をくれたご近所さん。だが、挨拶に伺った日に見せた別の顔に絶句
玄関先で受け取った缶
引っ越して一月ほどたった頃です。同じ時期に越してきたお宅にうちと同じくらいの年の子がいて、家の前でよく一緒に遊ばせていました。
夕方、チャイムが鳴りました。長く住んでいる方が、缶を抱えて立っています。
どうぞお上がりくださいと言いかけたところで、首を振られました。
「玄関先でいいわ、これ、うちはもう使わないから」
缶の中は色鉛筆でした。使いかけですが本数は揃い、削り口も整えられています。
子どもたちが道の端にしゃがんでいるのを、その方は目を細めて見ていました。元気でいいわね、と言われて、私も同じほうを見ました。
「優しい方でよかったね」
夜、夫にそう話しました。缶は子どもが机に並べて、さっそく使っています。
食い違っている、という言葉
班長さんが来たのは、数日後です。回覧板を渡しながら、少し言いにくそうにしていました。
「あちらのお宅と、お話が食い違っているみたいで」
何がどう食い違っているのか、聞いても要領を得ません。ただ、一度ご挨拶に伺われたほうがいいと思います、とだけ何度も繰り返されました。
「うちが何か、しましたか」
班長さんは答えず、回覧板の受け取り欄を指さして帰っていきました。心当たりを探しても、思い当たるのは色鉛筆をいただいたことくらいです。
伺った日の声
菓子折りを持って伺ったのは、週の終わりです。出てきたのは、色鉛筆をくださった日と同じ穏やかな顔でした。
「何時ごろまで、外で遊んでるのかしら」
世間話のあいだに、そういう言葉が挟まりました。子どもの声って響くのよね、とも続きます。はっきりとは言われませんが、遊び声のことだと分かりました。
「ご迷惑になるほどだったとは思わず、申し訳ありませんでした」
頭を下げた、その途端です。
「じゃあ今まで、ずっと知らなかったのね」
声の高さが変わりました。穏やかだった目が動かなくなり、言葉が途切れずに出てきます。
私は下げた頭を上げるきっかけを失って、三和土の一点を見ていました。
何をどう詫びたのかは覚えていません。気がつくと戸が閉まっていて、菓子折りだけが手に残ります。
帰り道で思い出したのは、缶を渡されたときの、目を細めたあの顔です。あのときにはもう、何か思っていたのでしょうか。
子どもたちの声が大きかったのかどうかは、いまも分かりません。分からないまま、その方の家の前を通るときだけ、足が早くなります。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


