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「降りる人が通れない」電車のドアの前でつり革を両手で握る乗客。微動だにしない姿に感じた本音

扉が開いても動かない背中
その朝も、いつもの時間の電車に乗りました。
扉が開いて車内に入ると、すぐ目の前に、大きなリュックを背負った女性の背中がありました。
両腕を高く上げて、つり革を2つとも握っています。
体操の吊り輪にぶら下がる選手のような格好でした。
おかしいのは、立っている場所が乗り降りする扉の真ん前だということです。
背中のすぐ後ろで扉が開き、人が出たり入ったりしているのに、彼女はまったく動きません。
降りる人は、彼女の左右の脇をすり抜けるようにして、体を横にしてホームへ出ていきます。
「すみません」
そう言って通り抜けた人もいましたが、彼女は振り返りもしませんでした。
ホームで二列に並んでいた乗る側の人たちは、彼女を分かれ道にして、Yの字に左右へ散っていきます。
誰も声を荒げません。文句も出ません。みんな黙って、彼女を避けて流れていくだけでした。
私は三つ先の駅で降りました。扉が閉まるとき、もう一度だけ振り返ります。
同じ姿勢のままの彼女を乗せて、電車は走り去っていきました。
数日後、また同じ扉の前に
その人のことは、その日のうちに忘れるつもりでいたのです。
数日後の朝、乗り込んだ車両で、また同じ背中を見ました。
同じリュック、同じ位置、両手でつり革を握った同じ格好です。人違いではありません。
その日は降りる人の流れがつかえて、扉のところで人が固まりました。
後ろに立っていた男性が、静かに声をかけます。
「降りる人が通れない」
怒鳴ってはいませんでした。むしろ、こちらが申し訳なくなるくらい穏やかな声でした。
彼女は答えませんでした。首も動かしません。男性はそれ以上何も言わず、次の駅で降りていきました。
何か月経っても、答えは出ない
またしばらくして、彼女を見かけました。
その日は反対側の扉に背中をつけて、寄りかかるように立っていたのです。そして、上目づかいでこちらを見ていました。
目が合ったのは、ほんの一秒ほどだったと思います。家に帰ってから、娘に話してみました。
「毎朝じゃないのよ。忘れた頃に、必ずいるの」
「気にしすぎじゃないの」
娘はそう言って笑いましたが、私は笑えませんでした。
そして今朝、また会ったのです。
両腕を上げてつり革を握り、扉の真ん中で、まっすぐ前を向いて立っていました。
何か月も前と、少しも変わらない格好で。
私は乗るのをやめました。扉が閉まり、その背中はまた、同じ姿勢のまま運ばれていきます。
次の電車が来るまで、白い線の内側から足が動きませんでした。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、60代以上・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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