Share
「子どもが3人いる私を、先に通してよ!」保育園の駐車場で大声を上げた保護者。だが、先生が正論をぶつけた結果

遠いほうの駐車場から
息子が通っていた保育園には、駐車場が二か所あった。
ひとつは園舎のすぐ横、もうひとつは150mほど離れた場所にある。
近いほうは台数が限られていて、混み合う時間は交通整理の先生の案内に従う決まりだった。
その朝も、門の手前で先生が誘導灯を振っていた。
「おはようございます。今はいっぱいなので、奥のほうへお願いします」
言われたとおりに車を回し、息子と手をつないで歩いて戻る。
150mの坂は、雨の日には少し長い。
それでも順番に案内されているのだと思えば、腹は立たなかった。
門が見えてきたところで、足が止まった。
保護者が立ったまま、誰も中へ入っていかない。その真ん中から、朝の道に響く声がした。
「子どもが3人いる私を、先に通してよ!」
声の主は、息子と同じクラスの保護者だった。ベビーカーを握ったまま、園舎の横の駐車場を指している。
「うちは下に二人いるの。人数で決めるべきでしょう」
「子どもが1人のお宅が、あんな近くに停めてるのは変じゃないですか」
誰も口を挟まなかった。息子が私のコートの裾を握った。
先生が並べた決まりごと
先生は誘導灯を下ろして、正面から向き合った。声は大きくない。
「お子さんの人数で、順番を分けることはできないんです」
「みなさん、同じようにご案内しています」
相手が息を吸う。先生は待たずに続けた。
「近いほうに停めたいお気持ちは、どのご家庭も同じですから」
「混み合う時間を少し外していただけると、こちらも助かります」
語気を荒らげるでもなく、言い負かすでもない。園の決まりをひとつずつ並べただけの言葉だった。最後に先生は頭を下げた。
保護者の口が、半分開いたまま止まった。視線が近いほうの駐車場へ向かい、先生へ戻り、それから後ろへ流れていく。
そこで初めて周りが見えたのだと思う。門の前には、遠いほうから歩いてきた保護者が並んでいた。抱っこ紐の人も、上の子と下の子の手を引く人もいる。誰も何も言わないまま、小さくうなずいていた。
「……分かりました、もう」
吐き捨てるでもない、ほとんど聞き取れない声だった。ベビーカーの向きを変えて、門をくぐっていった。
先生は誘導灯を持ち直し、次の車へ歩いていく。
「おはようございます。奥のほうへお願いします」
止まっていた列が、また動き出した。
子育ての大変さは家庭ごとに違う。それを理由に自分を先に通せと人前で言えることのほうが、私には不思議だった。
次の週も、その次の週も、彼女は遠いほうの駐車場に停めていた。下の子を抱え、上の二人の手を引いて坂を上がってくる。先生を見つけると、先に頭を下げていた。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


