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「レジに小銭を全部、出していい?」長時間かかったお会計。店員がかけた最後の一声とは

ビニール袋いっぱいの小銭
夕方のスーパーでレジに並ぶと、前のお婆さんが台に置いたのは財布ではありませんでした。
口を縛った小さなビニール袋です。透けて見えるのは、ぎっしり詰まった小銭でした。
「レジに小銭を全部、出していい?」
申し訳なさそうに聞くお婆さんに、若い店員さんは驚いた顔ひとつ見せませんでした。
「はい、どうぞ。ゆっくりで大丈夫ですよ」
じゃらり、と音を立てて硬貨が台に広がります。
ほとんどが一円玉と五円玉で、百円玉はほんの数枚しかありませんでした。
「目が悪いもんだから、うちで数えられなくてね」
「こちらで1枚ずつ数えますね。一緒に見ましょう」
店員さんは袖をまくって、十枚ずつの山を作り始めました。お婆さんも震える指で並べていきます。
数え終えたところで、店員さんの手が止まりました。
買ったものの合計に、少しだけ届かなかったのです。
「あらまあ。どれをやめたらいいかしらね」
「一緒に見ますね。こちらのお豆腐なら、小さい方に替えると安くなりますよ」
「そう。じゃあ、そっちにしようかね」
ひとつ戻して、打ち直して、また数え直し。それでも足りず、お菓子の箱をそっと脇へ寄せました。
ふと後ろを振り返って、私は息をのみました。列は、いつの間にか惣菜の棚の角まで伸びていたのです。
けれど、誰も何も言いませんでした。舌打ちひとつ、ため息ひとつ聞こえてきません。
ときどき、かごを持ち替える音がするだけでした。
最後にかけられた言葉
お婆さんの会計が終わったのは、袋を台に置いてから5分後のことでした。
荷物を受け取ったお婆さんは、その場で何度も頭を下げます。
「長いこと、ごめんなさいね。本当に、ごめんなさいね」
後ろの人にも店員さんにも、順番に頭を下げます。その背中へ、店員さんが声をかけたのです。
「またいらしてくださいね」
お婆さんが顔を上げます。目じりに深いしわが寄って、それから小さく笑ったのでした。
自動ドアの向こうへ出ていく背中を、列に並んだ全員が見送っていました。
数日後、同じ店に行くと、レジの横に紙が貼られていました。
「お会計はおつり銭の都合により硬貨20枚までとさせていただきます」
丁寧な字の、短い案内です。読んだ時は、少しだけ胸が痛みました。
でも、眺めているうちに考えが変わりました。あの紙は誰かを追い出すためのものではありません。
断ることも急かすこともできなかった店員さんを、店が守るための決まりなのだと。
あの5分を黙って待った列の全員が、たぶん同じことを願っていました。誰かがゆっくりでも待てる店であってほしい、と。
レジの前を通ると、あの店員さんが今日も落ち着いた声で客を迎えていました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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