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「お客さんやから、たくさん食べてな」結婚して初めての義実家への帰省→私がずっと気まずかったワケ

「お客さんやから、たくさん食べてな」結婚して初めての義実家への帰省→私がずっと気まずかったワケ

台所の入口で止まった足

結婚して初めて、夫の実家へ帰省した日のことです。玄関を上がると、奥の台所から出汁の匂いと包丁の音が流れてきました。

「何かお手伝いします」

鞄からエプロンを出しかけた私に、義母が振り返って手を振ります。

「ええよ、座っとって」

追い払うような言い方ではありません。それでも、どこに座ればいいのかが分からず、私は流し台の横に立ったままでいました。

「お皿だけでも出しましょうか」

「どこに何があるか分からんやろ。ええから、ええから」

そのとおりでした。食器の場所も、この家の味付けも、私はまだ何ひとつ知りません。義母は冷蔵庫の前の丸椅子を引いて、こちらへ向けました。

「冷蔵庫の前で、座っててええからね」

立ったり座ったりの三十分

言われたとおり、丸椅子に浅く腰かけました。

座ったとたん、義母が小走りでやって来ます。

「ごめんな、ちょっとそこ開けさせて」

私は立ち上がり、扉のぶんだけ後ろに下がります。

義母が卵を取り、扉が閉まり、また座ります。

それを三度くり返したところで、腰を浮かせたまま座るのをやめました。

座敷では、夫が伯父たちと相撲中継を見ています。

呼びに行くのも、隣へ座るのも違う気がしました。

台所でも座敷でもない場所に、自分だけが立っているようでした。

廊下の時計を見ると、着いてから三十分が過ぎています。

やがて大皿が運ばれ、食卓が埋まります。

「お客さんやから、たくさん食べてな」

うれしいはずの言葉なのに、箸を持つ手がうまく動きません。

私はこの家で、まだお客さんなのでした。

縁側から届いた声

食事が終わり、義母がお茶を淹れに立ちました。

縁側の柱にもたれてみかんを剥いていた義父が、ふいにこちらを向きます。

「今日は来てくれただけで十分やで」

「……そうでしょうか」

「そうやで。うちの嫁さんも、初めて来た日は台所で立ちっぱなしやった」

義父はみかんの皮を新聞紙の上へ置いて、目を細めました。

「あれから三十年、いまはあの調子や」

台所からは、鍋を洗う音が続いています。

ずっと張っていた背中から、力が抜けていくのが分かりました。

「お義母さん、洗い物させてください」

「ええの。ほな、拭くほうお願いしよかな」

義母は布巾を差し出して、流しの前を半分だけ空けてくれました。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。

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