MENU

Share

HOME LIFESTYLE STORY COLUMN

「長男だろ、食事代くらい払うのが普通だ」帰省のたび食事代を全額背負った夫婦。だが、夫の一言で親戚の空気が変わった

「長男だろ、食事代くらい払うのが普通だ」帰省のたび食事代を全額背負った夫婦。だが、夫の一言で親戚の空気が変わった

端から回ってくる伝票

夫の実家に帰るのは、盆と正月と法事の年に三回です。そのたびに親戚一同で座敷に集まり、料理が並び、最後に伝票が座卓の端をぐるりと渡っていきます。

止まる場所は、いつも決まっていました。

「はい、お兄さん」

伝票は必ず夫の前に置かれます。私は財布を出して、レジまで一緒に歩くだけでした。

締めて10万円近く。子どもの学用品も、その月の外食も、まとめて消えていく金額です。

帰りの車では、いつも同じ話になりました。

「今回もだったね」

「言えないんだよ、あの空気で」

「じゃあ来年も言えないね」

後部座席の子どもが寝たふりをしているのが分かります。夫婦げんかは毎回そこから始まって、家に着くころには行き場をなくしていました。

座敷で言われた当たり前

その年の盆も、座敷の並びは同じでした。

料理が下げられたころ、伯父がお茶をすすりながら夫のほうを見ます。

「長男だろ、食事代くらい払うのが普通だ」

責めている口ぶりではありません。この家では長いあいだ、それが決まりごとだったのです。

「まあ、そうなんですけどね」

夫は笑って伝票を取りました。私は湯呑みを下げながら、座敷にいる人数を数えます。十四人。一人あたりならいくらか、頭のなかで割り算をしていました。

その夜、夫は縁側で長いこと携帯を見ていました。開いていたのは、私がつけている家計簿でした。

夫が引いた線

翌朝、台所に親戚が集まって、朝食の支度が始まりました。伯父が新聞を置いて「今日の昼はどうする」と言った、そのときです。

「今回から、人数で割らせてください」

夫の声は、大きくありませんでした。

味噌汁の鍋の音だけが続いています。

「なんだ、急に」

「毎回10万円くらいです。年に三回で、三十万円になります」

伯父の湯呑みが、口の手前で止まりました。何か言いかけて、それを飲み込みます。

「長男だから全部出す決まりは、どこにもないので」

台所が静かになりました。先に口を開いたのは、義母です。

「そうよね。前から思っていたのよ」

「うちも、気まずかったんだよね」

従兄弟の奥さんが小さくうなずいて、隣に立っていた叔母も続きました。伯父は新聞をたたみ直して、窓の外の空を見上げます。

「……まあ、そのほうが今どきか」

その日の昼は、一人三千円ずつ集めて終わりました。帰りの車で、夫はいつもの話をしません。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

ほかの小説も読む

CHARACTERS

登場人物から探す

THEME

テーマ・シチュエーションから探す

ENDING

結末から探す

最も人気の短編小説

もっと見る >

スカッとする短編小説

もっと見る >

モヤモヤ短編小説

もっと見る >

ゾッとする短編小説

もっと見る >

LINEの短編小説

もっと見る >

実体験をもとにした短編小説

もっと見る >

恋愛トラブル

もっと見る >

ハラスメント

もっと見る >

金銭トラブル

もっと見る >

浮気・不倫

もっと見る >

仕事のトラブル

もっと見る >
ふと心に引っかかった「モヤモヤ」
思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」

その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

応募フォームはこちら

PROFILE

GLAM Lifestyle Editorial

編集部

日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。

website
前の記事

「利子のつく200万は、私が先に払う」仲が良いとは言えない姉弟。奨学金が繋いだ信頼の証とは

GLAM Lifestyle Editorialのすべての記事を見る

Gallery

SHARE !

この記事をシェアする

Follow us !

GLAM公式SNSをフォローする

Feature

特集記事

Ranking