Share
「手、汚れちゃうよ」座席に投げ捨てられたゴミ。だが、2人の女子高生の対応に漏らした本音

向かいの席に残されたもの
平日の昼過ぎで、車内はところどころ席が空いていました。
私は扉のそばに腰かけて、窓の外をぼんやり眺めていたのです。
斜め向かいの男性は、足を大きく開いて座席を2つ分ほど使っていました。
電車が動き出してすぐ、鞄からバナナを取り出したのが見えます。皮をむいて、その場で食べはじめました。
甘い匂いが、静かな車内にゆっくり広がっていきます。
誰も何も言いません。
私も、何も言えませんでした。
次の駅に着くと、男性は立ち上がりました。
その時、あろうことか、皮を座席の上に放り出したまま降りていきました。
扉が閉まり、電車がまた走り出します。
残された皮を、車内の全員が見ていました。
見ていて、誰も動きませんでした。
制服の2人が出した袋
そのとき、皮の向かいに座っていた女子高生2人が、顔を見合わせたのです。
片方が鞄のポケットから、たたんだビニール袋を取り出しました。
「持って帰ろっか」
「うん、袋あるし」
「手、汚れちゃうよ」
「袋の内側でつまめば平気だって」
相談はそれで終わりでした。
2人は席を立って皮のそばまで歩き、袋の口を広げて、袋の中に入れたのです。
手が触れないよう、袋越しにつまんでいました。
その手つきを見ていて、私は自分が何もしなかったことをはっきり自覚しました。
車内に広がったお礼の声
袋の口を結んだところで、近くの座席から声が飛びました。
「ありがとうね」
スーツ姿の男性でした。2人は驚いた顔をして、小さく頭を下げます。
すると通路を挟んだ席の年配の女性が、鞄からウェットティッシュを出して差し出しました。
「これ、使って」
「すみません、ありがとうございます」
2人は交代で手を拭いて、丁寧に礼を言いました。
ずっと下を向いていた車内が、そこだけ少し明るくなった気がします。
降りる駅が近づき、2人は袋を提げて扉の前へ移動します。
すれ違いざま、片方が言ったのが聞こえました。
「座る人が困るから」
それだけです。誇るふうでもなく、すぐに部活の話へ戻っていきました。
扉が開いて、制服の背中が2つ、ホームの人の流れに紛れていきます。
私はまだ、席に座ったままでした。
良い人すぎる、と思いかけて、やめました。
動かなかったのは私のほうです。
ホームに降りて鞄の内ポケットを探ると、たたんだままのビニール袋が1枚、指先に触れました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


