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「そこで畳めますよ」濡れた傘を畳まない乗客。だが、他の乗客が渡した1枚の袋で状況が一変
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「そこで畳めますよ」濡れた傘を畳まない乗客。だが、他の乗客が渡した1枚の袋で状況が一変
雨の朝の混んだ車内
その日は朝から雨で、いつも使う路線バスは停留所を通るたびに人が増えていきました。
傘を持った人が続けて乗り込むので、乗り口のあたりは特に混み合います。
私は真ん中の手すりにつかまっていました。
三つめの停留所で、雨合羽を着た人が乗ってきました。
開いたままの傘を、片手に持っています。
乗り口の近くにいた人が、体をずらして声をかけます。
「そこで畳めますよ」
「はいはい、わかりましたよ」
と言いつつも、そのまま、傘の先を下に向けて歩き出しました。合羽の裾からも、雨粒がぼたぼたと落ちています。
通り道にいた人が、順番に体をよじりました。それでも狭い通路では、下がれる幅がありません。
前に立っていた男性のスラックスに、黒い染みが広がりました。
その隣にいた学生のかばんにも、雨粒が飛んでいます。
私も避けきれませんでした。おろしたばかりの薄い色のブラウスに、袖から肘まで水が伝っていきます。
結局、3人分の服が濡れました。
それでも誰も声を上げません。運転席から、混み合った後ろの通路まで見えないことは、毎日乗っている私にはわかります。
その人は奥のほうで、まだ傘を持ったまま立っています。
降車口で差し出された袋
降りる停留所が近づいて、私は降車口へ移動しました。すでに何人かが並んでいます。
そこへ、あの人が横から入ってきて先頭に立ちました。傘は、まだ開いたままです。
そのとき、私の後ろにいた高齢の女性が、かばんから細いビニール袋を取り出しました。
「これ、余分に持ってるので使ってください」
「濡れた傘は、畳んでも垂れますから」
責める調子は、どこにもありませんでした。忘れ物を届けるような声です。
受け取ろうとした手が、袋の手前で止まりました。
その人が、初めて周りを見回します。染みの広がったスラックス、水の跳ねたかばん、濡れた私の袖。
「…すみません、気づかなくて」
小さな声でした。それから傘を畳んで、袋にしまいます。
「本当に、すみませんでした」
濡れていた人たちのほうへ、順番に頭を下げていきました。
男性が黙って会釈を返し、学生も小さくうなずきます。私も一度だけ頭を下げて、それ以上は何も言いませんでした。
扉が開いて、その人は袋を握ったまま降りていきます。
高齢の女性は、何事もなかったような顔で手すりに戻りました。
「よく、あの袋を持っていましたね」
「雨の日は二本入れてるの。誰かが困るから」
それから何日か経った、また雨の日のことです。
同じ停留所で、あの合羽を見かけました。乗り口の前で足を止めて、傘を畳んで、袋に入れてから段を上がっていきます。
席に座ってからも、袋の口をしっかり握ったままでした。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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