Share
「産地を全部、教えてよ」混雑のなか質問と席替えを何度も重ねた客。だが、店員の対応に感心した瞬間

「産地を全部、教えてよ」混雑のなか質問と席替えを何度も重ねた客。だが、店員の対応に感心した瞬間
レジで続いた終わりのない質問
昼どきの飲食店は、どのテーブルも埋まり、入口には順番を待つ人が列をつくっていた。
私も注文を済ませようと、レジの前でひとつ後ろに並んでいた。
私の前にいたのは、四十がらみの男性客だった。会計の列がなかなか進まないと思って見ると、その人が店員をつかまえて、次から次へと質問を重ねている。
「産地を全部、教えてよ」
メニューの材料はどこ産か、調理法はどうか。
ひとつずつ細かく確かめていく。店員は嫌な顔ひとつせず、丁寧に答えていた。
「はい、こちらの定食のお野菜は、地元の農家さんから届く旬のものを使っております」
「じゃあ、この魚はどこの海のものなの。焼き方も知りたいな」
「日本海で獲れたもので、塩を振って香ばしく焼き上げております」
「その煮物は、どうやって味つけしてるの。だしの素材まで知りたいんだよ」
「かつお節と昆布で、じっくりだしをとっております。お口に合いましたら幸いです」
店員は一つ一つの問いに、少しも面倒がる様子を見せなかった。
それでも、質問は途切れる気配がない。
ようやく会計が終わったかと思えば、今度は席への注文が始まった。
「この席は風が当たるから嫌だ。それに、隣の人が近い気がするな」
後ろに並んだ客たちの待ち時間は、じわじわと延びていく。私の前の女性がちらりと腕時計に目を落とし、その後ろの人も小さく息をついた。
困ったような空気が、列全体にそっと漂いはじめていた。
店員が見せた鮮やかなさばき方
それでも店員は、少しも慌てなかった。てきぱきと、しかし丁寧に、男性の求めにひとつずつ応えていく。
「かしこまりました。それでしたら、風の当たらない奥の落ち着いたお席へご案内いたします」
言うが早いか、さっと通路を抜けて奥の席へ手を差し伸べ、男性を導いていく。迷いのない身のこなしだった。
「こちらでしたら、お隣との間も広めにとってございます。ごゆっくりお過ごしください」
あれほど注文を重ねていた男性が、案内された席に腰を下ろすと、張っていた肩からふっと力が抜けた。
とがっていた表情がゆるみ、目もとがやわらいでいく。
「……ああ、ここならいいな」
店員は軽く頭を下げ、そのまま止まっていた会計へと戻っていった。
長引いていた列が、すっと動きだす。
待たされていた周りの客たちも、どこかほっとした顔で肩の力を抜いていた。混み合う店の中で、ひとりも無下にせず、すべてをさばききった手際。私はその落ち着きぶりに、思わず見入ってしまった。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


