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「1階のポストの前で見たの」他人の郵便物を開けて読んでいる住民。目が合ってしまった結果

階段の下に並ぶ箱
以前住んでいたのは、四階建ての集合住宅でした。
各部屋の玄関にも郵便受けはありましたが、届け物はたいてい、1階の集合ポストに入ります。
階段の下、自転車置き場の脇に、金属の箱が横並びになっていました。
夕方に帰ると、いつも誰かがそこに立っています。
その人に気づいたのは、越して二か月ほど経った頃です。同じ階段を使う年配の男性でした。
「こんばんは」
声をかけると、こちらを見て軽くうなずきます。手には、封筒がありました。
立っていたのは、自分の部屋の番号のところではありませんでした。
開いたままの封
二度目に見たのは、雨の日の夜でした。傘をたたみながら階段を上がろうとして、足が止まりました。
男性は、ポストの列の端に体を寄せて、封筒の中身を引き出していました。紙を広げて、蛍光灯の下で読んでいます。
隠すそぶりはありませんでした。私の足音に気づいて顔を上げ、目が合って、それから紙に視線を戻します。
読み終えると、丁寧に折って、元の口へ戻していました。
「……こんばんは」
声が出たのは、こちらのほうでした。男性は同じようにうなずいて、階段を上っていきました。
部屋に戻って、夫に話しました。
「どこで見たの」
「1階のポストの前で見たの」
「見間違いじゃなくて」
「新聞を、そのまま読んでた」
夫は少し考えてから、明日にでも管理の方に言おうか、と言いました。
私はうなずきましたが、次の日には言えませんでした。
早く下りるようになって
その人とは、廊下でよくすれ違います。ごみ出しの朝も、階段の踊り場でも、必ず一度は顔を合わせました。
「おはようございます」
「おはよう」
挨拶は返ってきます。天気の話をされることもありました。
話しているあいだ、私は自分の郵便受けのことを考えていました。
郵便が届く時間を調べて、その少しあとに下りるようにしました。届いていれば、その場ですぐに抜き取ります。
夜のうちに一度、寝る前にもう一度、階段を下りる日もありました。
それでも、下りていくと、たいてい先に誰かが立っています。
引っ越しの日まで、私はその人に何も言えませんでした。
最後に階段ですれ違ったとき、男性はいつもと同じようにうなずいて、ポストのほうへ歩いていきました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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