Share
「玄関まで持ってこい、遅いんだよ」指定の時刻に着いていた配達員。だが、文句を言う客につきつけた事実とは

指定の時刻に押した呼び鈴
配達の仕事を始めて半年、その日の最後の一件は住宅街の奥にある一戸建てでした。
指定は午後1時から2時のあいだです。
端末の画面で時刻を確かめてから、表札の下のインターホンを押しました。家の中で呼び出し音が鳴っているのは、外に立っていても分かります。
返事はありません。もう一度押して、少し下がって二階の窓を見上げました。
登録された番号にかけても、呼び出し音が続くだけです。
荷物を抱え直し、玄関前の日陰で待ちました。
次の便の時刻が近づき、端末に不在の入力画面を出しかけたときでした。内側で鍵の回る音がして、扉が開きます。
「遅いんだけど」
五十代くらいの男性が、ドアノブに手をかけたまま言いました。
「お待たせして申し訳ございません。1時40分にお伺いして、何度かお呼びしておりました」
「聞こえてないよ、そんなの」
たたきの端に置いた箱
箱を差し出しても、男性は受け取ろうとせず、片足を後ろへ引きました。
「玄関まで持ってこい、遅いんだよ」
「失礼いたします」
靴を脱がないまま、たたきの端へそっと箱を下ろします。
伝票の控えを差し出しましたが、男性は署名の欄をにらんだきり動きません。
「もっと早く来てくれればよかったのに」
私は端末を持ち直し、画面をお客様のほうへ向けました。
画面に並んだ到着の記録
「本日の記録でございます。到着が1時40分、呼び出しが3回、お電話が1件残っております」
並んでいるのは時刻と数字だけです。責める言葉はどこにもありません。
男性の眉が、一度だけ動きました。
「…1時40分って、書いてあるな」
「はい。ご指定のお時間の中でお伺いしております」
「……そんなの、こっちは知らないだろ」
言い返さずに頭を下げると、男性は次の言葉を言いかけて、そのまま飲み込みました。
視線がたたきの箱へ落ち、それから私の顔を避けるように横へ流れていきます。
隣の家の方が庭に水をやりながら、こちらへ小さく会釈をしました。
ずっと聞こえていたのだと分かる会釈でした。
「…ああ、うん。もういいよ」
扉が閉まる音は、開いたときよりずっと静かでした。
翌週、同じ住所の荷物がまた台車に載りました。呼び鈴を押すと、今度は一度で扉が開きます。
「ご苦労さん。ここでいいよ」
男性は玄関先で箱を受け取り、私が礼を言うより先に、小さく頭を下げました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


