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「この店に来ると落ち着くんだよ」必要なことしか話さなかった客。だが、私の勤務最終日で見せた笑顔

「この店に来ると落ち着くんだよ」必要なことしか話さなかった客。だが、私の勤務最終日で見せた笑顔
カウンターの端の、いつもの席
飲食店で働いていた頃の話です。いつも一人で来店する年配のお客さんがいました。
引き戸を開けると、まっすぐカウンターの端の席へ向かいます。上着をたたんで膝に置き、おしぼりで手を拭く。そこまでの動きは、いつもほとんど同じでした。
注文も短いものでした。
「焼き鳥を何本か、あとはおすすめで」
それだけ言うと、あとは静かに料理を待っています。最初の頃、私は何度か世間話を振ったことがありました。しかし返ってくるのは、小さくうなずく程度の返事ばかりです。
正直、少し近寄りがたい人なのかなと思っていました。
ただ、何度か接するうちに、無理に話しかける必要はないのかもしれないと思うようになりました。
それから私は、必要以上に話しかけるのをやめました。
「お待たせしました。焼き鳥です」
料理を出すときに一言。食器を下げるときに一言。それくらいの距離が、その人にはちょうどいいように感じていました。
いつもの焼き鳥を出した、その日
ある日も、いつもと同じように焼き上がった串を皿に並べ、その人の前へ運びました。
「お待たせしました。焼き鳥です」
そう言って皿を置くと、その人がふいに顔を上げました。
「今日も焼き鳥をありがとう。この店に来ると落ち着くんだよ」
そして、少し笑ったのです。
その人の笑顔を見たのは、そのときが初めてでした。
私は一瞬驚いて、「ありがとうございます」と返すのが精いっぱいでした。特別なことをしたつもりはありません。ただ注文を聞き、料理を運び、必要なときだけ声をかけていただけです。
それでも、その人にとっては、その距離感が心地よかったのかもしれません。
それから少しずつ、短いやり取りが増えていきました。天気のことや、店の前の道のこと。長く話し込むわけではありません。それでも以前より、返事をしてくれることが多くなりました。
最後の日にかけられた言葉
しばらくして、私はその店を辞めることになりました。
最後の勤務日に、そのことを伝えると、その人は少し黙ってから言いました。
「最後の焼き鳥もうまかったよ。次の仕事でも頑張ってね」
最初は近寄りがたいと思っていた人から、今度は私が送り出される側になっていました。
たくさん話したわけではありません。名前を呼び合うほど親しくなったわけでもありません。それでも、焼き台の熱や食器の音の中で交わした短い言葉は、不思議と今でも覚えています。
※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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