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「返ってきてないお金があったんだけどな」離婚して以来一度も会わなかった父の訃報。だが、母が漏らした一言とは

「返ってきてないお金があったんだけどな」離婚して以来一度も会わなかった父の訃報。だが、母が漏らした一言とは
父の話をしない家で、私は大人になった
私が小学生のとき、両親は離婚した。
私は母に引き取られ、それきり父とは一度も会っていない。
年賀状も、電話も、誕生日の一言もなかった。
母は働きに出て、私を育てた。
父のことを悪く言うのを、私は一度も聞いたことがない。ただ、話題にも出さなかった。
子どもながらに、触れてはいけない場所なのだと分かっていた。
だから私も聞かなかった。そのまま何年も過ぎて、私は成人した。
知らせが届いたのは、ある平日の夕方だった。父が亡くなった、という短い連絡だった。
「そう。わかった」
母は受話器を置いて、それだけ言った。取り乱すでも、泣くでもなかった。
私はどんな顔をすればいいのか分からず、ただ台所に立つ母の背中を見ていた。
その日の夕飯は、いつもと同じ献立だった。
ただ、いつもと違って、食卓に父の話が出た。
「あの人、痩せてたのかな」
母が湯呑みを置いてつぶやいた。私は返す言葉を探せずにいた。何年も、この家になかった話題だった。
母がふと漏らした、初めて聞く話
沈黙のあとで、母はふいに、独り言のような調子で言った。
「結局、返ってきてないお金があったんだけどな」
え、と声が出た。
お金って、と聞き返す私に、母はなんでもないことのように続けた。
あのころ、まとまった額を用意して渡したことがあるのだと。
「あのころ、私が借りて用意したの」
母が用意した、という意味が、しばらく飲み込めなかった。
当時の暮らしを思い返せば、母に余裕があったはずはない。
借りた、というのはつまり、そういうことだ。
「返ってこないままね。もう昔の話よ」
じゃあ今も残っているの、と言いかけた私に、母は首を振った。
とっくに自分で返し終えていると言う。
それきり借りたこともないとも。
私が黙っていると、母は湯呑みを持ち上げて笑った。
「明細も残ってるけど、もういいの」
もう身内に連絡も取りたくないから、いいのよ、と母は言った。
惜しいとも、悔しいとも言わなかった。
私はずっと、母がまだどこかで父を待っているのだと思っていた。
話題にしないのは、痛いからだと思っていた。母が一人で抱えているのだと、勝手に決めつけていた。
そうではなかった。母は私の知らないうちに、自分で返して、自分で終わらせていた。区切りは、とうの昔についていたのだ。
「片づいてるのよ、もう」
茶碗を下げながら、母はそう言った。その背中は、何かを我慢している人の背中ではなかった。私は、この人の娘でよかったと思った。
※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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