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「いい宿を選べたな」申し分のないホテル。だが、エレベーターで出会った客の態度で台無しに

「いい宿を選べたな」申し分のないホテル。だが、エレベーターで出会った客の態度で台無しに
部屋もスタッフも、申し分なかった
イベントに参加するため、その日は日帰りではなくホテルに一泊することにした。
ひとりで知らない街に泊まるのは久しぶりで、駅からの道を歩いているあいだ、少しだけ気持ちが浮き立っていた。
チェックインを済ませて通された部屋は、隅々まで掃除が行き届いていた。
フロントの人の案内も落ち着いていて丁寧で、ホテルそのものには何ひとつ不満がなかった。
「いい宿を選べたな」
そう思いながら備え付けの館内着に着替えて、地下にある大浴場へ向かった。
私の部屋は上の階だったから、行きも帰りもエレベーターを使うことになる。
湯上がりで少しほてった顔に、廊下の空調がちょうどよかった。
エレベーターホールに着くと、扉が開いたままになっていて、先に乗っている人がいるのが見えた。
「あ、間に合った」
目が合ったような気がした。扉が閉まる気配もない。待っていてくれているのだと思って、私は小さく会釈をしながら、乗り込もうと一歩を踏み出した。
挟まれた瞬間と、そのあとの沈黙
その瞬間、両側から扉が迫ってきた。閉じるのボタンを押されたのだと気づいたのは、避ける間もなく肩と腕が挟まれたあとだった。
「痛っ!」
自分でも驚くほど大きな声が出てしまい、慌てて口をおさえた。扉はすぐに開き直り、私はよろけるように箱の中へ入った。
押し間違えたのかもしれない。閉じるのボタンと開くのボタンは並んでいるし、誰にでもあることだと思った。
だから私は、相手の方をちらりと見た。
「大丈夫ですか、の一言があれば」
それだけで、この出来事は笑い話になるはずだった。
けれどその人は正面を向いたまま、表情ひとつ動かさなかった。私の声が聞こえていないはずのない距離だった。
エレベーターは静かに動き、次の階で止まった。その人は何事もなかったような足取りで降りていき、扉が閉まって、箱の中には私だけが残された。
何が起きたのか頭が追いつかないまま、私は階数の表示をただ見つめていた。
「……行ってしまった」
部屋に戻って腕を見ると、うっすらと赤い跡が残っていた。
それも翌朝にはきれいに消えていて、痛みそのものはたいしたことがなかったのだと思う。
わざとだったのか、本当に押し間違えただけなのかは、今も分からない。分からないままでいい、とも思う。ただ、あの一言がなかったことだけが、あの旅の記憶にずっと引っかかっている。
※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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