Share
「あれって、持ち帰りしてるのかな」バイキングの料理を持ち帰ろうと詰め込む客。見ていた私が感じた違和感

旅先の朝、会場で見た光景
連休を利用して、久しぶりに泊まりがけの旅行へ出かけた。
私にとって楽しみのひとつが、宿の朝食バイキングだった。
焼きたてのパンや温かいおかずが並ぶ会場は、朝から人でにぎわっていた。
料理を取りに行こうと席を立ったとき、少し離れたテーブルの女性が目に入った。
テーブルの上に、大きなランチボックスを広げている。
最初は、自分の席で食べるために取り分けているのだと思った。
けれど、その人は何度も料理コーナーと席を往復していた。
そのたびに、おかずやサラダを箱の中へ詰めていく。ごはんも、煮物も、揚げ物も。トングを持つ手に迷いはなく、まるで自宅の台所で作り置きでもするような手つきだった。
箱はみるみるうちに、すき間なく埋まっていった。
近くのテーブルにいた人が、連れに向かって小さくつぶやいた。
「あれって、持ち帰りしてるのかな」
私は思わず、手を止めてしまった。
バイキングは、その場で食べるためのもの。そう思い込んでいた自分にとって、目の前の光景はどこか信じがたかった。
誰も声をかけないまま
周りの人たちも、気づいていないわけではなかった。
ちらりと視線を送っては、また自分の皿に目を戻す。けれど、その人に直接声をかける人は、誰もいなかった。
「ねえ、あれ大丈夫なの?」
一緒に来ていた連れが、遠慮がちに耳打ちしてきた。
「さあ…こういうの、いいのかな」
私も同じことを考えていたけれど、はっきりした答えは持っていなかった。
会場の隅では、スタッフが小声で何かを話していた。ときおり、その女性のテーブルのほうへ目をやっている。
「どうしましょうか、あのお客様…」
気にかけている様子は、確かにあった。
それでも、スタッフがその人のもとへ歩み寄ることはなかった。
注意するでもなく、見て見ぬふりをするでもなく。ただ遠くから見守るような空気だけが、会場に漂っていた。
「なんだか、こっちが落ち着かないね」
連れの言葉に、私は小さくうなずくことしかできなかった。
やがてその人は、詰め終えた箱にきちんと蓋をして、何事もなかったように会場を出ていった。
悪びれた様子も、こそこそする素振りもない。まるで、それが当たり前の朝の準備であるかのような、堂々とした後ろ姿だった。
会場に残された私たちだけが、どこか宙ぶらりんな気持ちを抱えたまま、冷めかけたコーヒーをすすっていた。
結局、あれが許されることだったのか、そうでなかったのか。私には最後まで分からなかった。
ただ、朝食のあいだじゅう感じていた、あのなんとも言えない気持ちだけが、旅を終えた今も胸の隅に残っている。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


