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「6個全部もらうわ。早い者勝ちでしょ」焼きたてのパンを全部持ってた客。だが、スタッフの一言で状況が一変

焼き上がりを待つ長い列
温泉旅館に宿泊した翌朝、私は朝食バイキングの会場を訪れました。
広い会場には和食や洋食がずらりと並び、なかでも人気を集めていたのが、目の前の鉄板で焼いてくれるフレンチトーストでした。
大皿に並べられると、すぐになくなってしまいます。
私が料理台へ向かったときには、すでに十人ほどの列ができていました。
「次の焼き上がりまで、十分ほどお待ちください」
鉄板を担当していた女性スタッフが、並んでいる人たちへ丁寧に声をかけます。
せっかくなので焼きたてを食べたいと思い、私も列の最後尾に並びました。
前には年配の夫婦や、小さな子どもを連れた家族がいます。
子どもが何度も鉄板をのぞき込み、そのたびに母親が「もう少しだからね」と声をかけていました。
甘い香りが会場に広がり始めます。
スタッフがパンを裏返すたび、表面にはきれいな焼き色がついていきました。
しばらくすると、スタッフが焼き上がったフレンチトーストを大皿へ移し始めました。
「お待たせいたしました。お一人様一つずつ、前の方からお取りください」
ようやく列が動き始めた、そのときです。
列の横から、五十代くらいの女性が料理台の前へ入ってきました。
並んでいる人たちには目も向けず、空いていた皿を手にして、大皿へまっすぐ近づいてきます。
「ちょっと、家族の分も必要なのよ」
女性はそう言うと、トングを取ろうと手を伸ばしました。
皿には、焼きたてのフレンチトーストが六個並んでいます。
「6個全部もらうわ。早い者勝ちでしょ」
並んでいた人たちは、驚いた様子で顔を見合わせました。
スタッフが静かに手を止めた
女性がトングをつかもうとした瞬間、鉄板の前にいたスタッフが、そっと大皿を自分のほうへ引きました。
「申し訳ございません。こちらはお並びいただいた順に、お一人様一つずつお渡ししております」
落ち着いた声でしたが、はっきりとした口調でした。
女性は不満そうに眉をひそめます。
「家族が席で待っているのよ。何度も取りに来るのは面倒じゃない」
するとスタッフは、表情を変えずに答えました。
「ご家族の皆様にも列へお並びいただくか、次の焼き上がりをお待ちください。皆様、同じようにお待ちいただいておりますので」
女性は納得できない様子で、列の前方を見回しました。
しかし、そこには十分近く待っていた年配の夫婦や、焼き上がりを楽しみにしていた子どもがいます。
後ろに並んでいた男性も、静かに口を開きました。
「皆さん、ずっと並んでいますよ」
女性は何か言い返そうとしましたが、周囲の視線に気づいたのでしょう。
しばらく黙ったあと、手にしていた空の皿を料理台へ戻しました。
「もういいわ」
そうつぶやくと、列には並ばず、そのまま自分の席へ戻っていきました。
スタッフは気持ちを切り替えるように、先頭の人へ声をかけました。
「大変お待たせいたしました。こちらから順番にどうぞ」
フレンチトーストは、一つずつ並んでいた人へ渡されていきます。
最初に受け取った子どもは、うれしそうに皿を両手で持っていました。
私の順番が来たころには、最初の六個はなくなっていましたが、次の分がちょうど焼き上がったところでした。
スタッフは私の皿へ、湯気の立つ一個を載せてくれました。
「お待たせして申し訳ございません」
「いえ、ありがとうございます」
席に戻って口にすると、外側は香ばしく、中はふんわりとしていました。
順番を守って待った人が、きちんと料理を受け取れる。
当たり前のことですが、それをスタッフが毅然と守ってくれたおかげで、朝食会場にはすぐに穏やかな空気が戻りました。
料理のおいしさだけでなく、スタッフの落ち着いた対応も印象に残った朝でした。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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GLAM Lifestyle Editorial
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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