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「シャワーだけで帰っちゃうんだ」露天風呂で毎回会うのに浸からない男。不思議な光景に感じた違和感

シャワーだけで帰っちゃうんだ露天風呂で毎回会うのに浸からない男不思議な光景に感じた違和感

湯が気に入って

友人と二人で、前々から評判を聞いていた温泉宿へ出かけたときのことです。

四十を過ぎると、こういうのんびりした旅のありがたみが、しみじみ身にしみるようになりました。

着いてすぐに入った露天風呂が、とにかく気持ちよくてたまりませんでした。

せっかくだからと、朝と昼と晩で一日3回は必ず通おうと、友人と二人で決めたのです。

湯気の向こうに、手入れの行き届いた庭がぼんやりとにじんで見えます。

しばらくは、この露天風呂に浸かるためだけに来たようなものだと、二人で笑い合っていました。

洗い場から動かない人

ところが、露天風呂へ行くたびに、決まって同じ宿泊客と顔を合わせるのです。

年のころは六十ほどでしょうか、口数の少ない、物静かなおじさんでした。

朝に行けば、いる。

昼に行っても、いる。

晩に行っても、やはりいる。

はじめは、私と同じでよほど湯が気に入ったのだろうと、微笑ましく思っていました。

けれど、何度か見かけるうちに、どうにも妙なことに気づきました。

そのおじさんは、いつも洗い場のあたりにいて、シャワーで体をさっと流すと、湯船のほうへは一度も向かわず、そのまま出ていってしまうのです。

私が湯に浸かっているあいだ、おじさんはずっと洗い場のほうで過ごしているように見えました。

湯気に隠れてはっきりとは分かりませんが、浸かっている姿だけは、どうしても目に入ってこないのです。

友人も見ていない

あまりに気になって、三度めに見かけた晩、私は湯の中から、隣の友人にそっと声をひそめて尋ねました。

「あのおじさん、湯船に浸かった姿、見たことある?」

友人はしばらく記憶をたどるように黙り、それから、ゆっくりと首を横に振りました。

言われてみれば、自分も一度も見た覚えがない、というのです。

私は思わず、口の中で小さくつぶやいていました。

「3回とも、シャワーだけで帰っちゃうんだ」

声に出してみると、その一日3回という繰り返しが、かえって不気味に思えてきました。

湯につかりに来た宿で、一度も湯につからない人がいるということだけが、妙に胸に残ったのです。

結局、その理由を確かめる勇気は出ないまま、私たちは翌朝に宿を発ちました。

あのおじさんが何をしていたのか、今も分かりません。

ただ、旅の楽しい思い出の片隅に、あの洗い場の背中だけが、今もひっそりと居座っているのです。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。

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