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「玄関の戸の音がうるさいのよ」思わず声に出してしまった一言。隣人に聞かれて気まずくなった結果

数えるつもりはなかった
越してきた住宅街は、朝からよく音がします。
回収車、犬、どこかの工事。慣れれば気にならない音です。
ただ、ひとつだけ耳が拾ってしまう音があります。隣の玄関の引き戸です。
カラカラと開いて、少し置いてバタン。それが間を空けずに繰り返されます。
「今の、また鳴った」
在宅で仕事をしていた夫が、顔を上げました。
「三分前にも鳴ってたよ」
数えるつもりはなかったのに、いつからかノートの端に線を引くようになりました。
洗濯物、水やり、ごみ袋、宅配の受け取り。用があるたびに戸が動きます。
その日の線を数えたら、40回ありました。
窓を開けていた日
夏が近づき、昼は窓を開けるようになりました。網戸ごしに風が通ると、音はいっそう近くなります。
その午後は締め切りが迫っていました。カラカラ、バタン。カラカラ、バタン。
ペンを置いたとき、口が先に動いていました。
「玄関の戸の音がうるさいのよ」
言ってから、窓が開いていることに気づきました。
外は静かでした。しばらく、隣からは何の音もしません。
「聞こえたかな」
「聞こえたと思う」
夫はそれだけ言って、また画面に戻りました。
音が減って、残ったもの
次の日、線は十本を少し超えたところで止まりました。その次の日も同じです。
洗濯物は一度にまとめて運ばれるようになりました。
悪気があってのことではなかったのだと、音の減り方で分かります。
ありがたい反面、ごみを出す時間をずらすようになりました。何と言えばいいのか、分からなかったからです。
会ったのは二週間ほど経った朝です。鉢植えを抱えた隣の方と、門の前で向き合う形になりました。
「おはようございます」
「おはようございます。…あの、うちの戸、うるさかったでしょう」
鉢を抱え直して、その人は続けました。
「自分の家の音って、不思議と耳に入らないものなんですね」
「こちらこそ、声が漏れてしまって」
「言ってもらえてよかったですよ。あのままだと、ずっと気づかないままでした」
それから鉢の花の名前を教わりました。
日当たりの話をしているうちに、私の手にも小さな鉢が渡っていました。
戸の音は今も日に何度か鳴ります。ただ、鳴るたびに線を引く癖はなくなりました。
ごみの日の朝は、門の前で顔を合わせます。
「今日は暑くなるみたいですよ」
そう声をかけると、向こうも同じ調子で返してきます。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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