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「割り込む前に、一言あるでしょう」先に場所を確保した親を追いやった夫婦に、周りから届いた一声

ロープ際にできた列
娘の幼稚園は園庭が狭いので、運動会の撮影場所が決まっています。
ロープの内側は園児の走路で、保護者は外側に一列で並びます。
午前の徒競走は、いちばんの人気種目でした。
私も三脚を抱えて、開門の三十分前から並びました。前にいたのは、下の子を抱っこひもで寝かせた父親です。
「うちの子、二番目に走るんです」
「じゃあ、最初から構えっぱなしですね」
そんな話をしながら、みんなでロープの端に肩を並べていました。
開始の音楽が鳴り、園児が入場してきます。
無言で入ってきた二人
一組目がスタートしたときです。
後ろから、大きなカメラバッグが私の肩に当たりました。
すみませんの一言もなく、夫婦がロープ際へ体を入れてきます。奥さんが先に隙間へ滑り込み、旦那さんが三脚の脚を広げました。
抱っこひもの父親は、脚を避けて半歩、また半歩と下がっていきます。
「あ、あの」
父親の声は、応援の太鼓にかき消されました。
夫婦はロープに手をかけたまま、園庭のほうしか見ていません。
斜め後ろから届いた声
声がしたのは、私の斜め後ろからでした。
「割り込む前に、一言あるでしょう」
怒鳴り声ではありません。
近くの人にだけ届く、低い声でした。夫婦の背中が止まります。旦那さんがゆっくり振り返り、園舎の角まで続く列を見て、それから抱っこひもの父親を見ました。
奥さんがカメラを下ろします。
「並んでらしたんですね。すみません」
「うちの子、次の組で。それで焦ってしまって」
旦那さんは三脚をたたむと、脚を抱えて列の外へ出ました。奥さんが父親に頭を下げて、二人で最後尾へ歩いていきます。
周りの何人かが、無言で半歩ずつ詰めました。ロープ際に、ちょうど一人ぶんの隙間ができます。抱っこひもの父親が、頭を下げながらそこへ戻りました。
「間に合いましたね」
「ぎりぎりです」
ピストルが鳴って、二番目のコースを小さな体が走っていきます。父親のスマホは、ちゃんとゴールまで追いかけていました。
次の種目の前、奥さんが父親のところまで来て、もう一度頭を下げていきます。
「さっきは、本当に」
「いえ。うちも、ここが精一杯なので」
父親の腕の中で、下の子が寝返りを打ちました。夫婦は列のいちばん後ろから、背伸びをして自分の子を撮っています。あの一言さえあれば、二人ももっと前で構えられたはずでした。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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