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「うるせぇな、聞こえてるから」イヤホンをしたまま怒鳴った客。帰り際に感じた店員の本音

窓際に座った男性
学生のころ、駅前の定食屋で昼のアルバイトをしていました。
十二時を過ぎると全席が埋まって、注文票を持つ手が追いつかなくなる店です。
その日も混雑の山を越えたころ、窓際の席に若い男性のお客さんが座りました。耳には白いイヤホンがついています。
水とおしぼりを置いて、伝票を構えました。
「ご注文はお決まりでしょうか」
返事はありません。メニューを見たまま、指先で表紙をとんとんと叩いています。
券売機のない店なので、聞かないことには何も出せません。少しだけ声を張りました。
「重ねて失礼いたします。ご注文はお決まりでしょうか」
顔が上がりました。眉が寄っています。
「うるせぇな、聞こえてるから」
日替わりを運んだ十五分
店内の話し声が、一瞬だけ止まったのが分かりました。
「失礼しました。ご注文をどうぞ」
「日替わり」
「日替わり定食をおひとつ、承ります」
厨房に通すと、先輩が鍋から顔を上げました。
「今の声、聞こえたけど。大丈夫か」
「大丈夫です。ごはんの大盛り、聞き忘れました」
盆に味噌汁とごはんを乗せながら、声の張り方をもう一度考えました。
大きすぎれば失礼になりますし、小さければ届きません。
定食を運んでも、男性は顔を上げませんでした。イヤホンをつけたまま、黙って箸を進めています。
水を足しに行っても、視線は合いません。
レジの前で外れた片耳
食べ終えた男性が、伝票を持ってレジに来ました。イヤホンはついたままです。
「お会計、850円になります」
財布を開いた手が止まって、男性がこちらを見ました。
「え?」
声を張るのはやめました。同じ声のまま、もう一度言います。
「お会計、850円になります」
男性の指が、耳に伸びました。イヤホンが外れた瞬間、店の音がその人の耳に流れ込んだのだと思います。
厨房の換気扇、隣の席の笑い声、レジ横の小さなラジオ。
「……850円、ですね」
「はい。お預かりします」
顔から、さっきまでの尖りが抜けていきました。目が泳いで、外したイヤホンを手のひらに握りこみます。
何か言いかけて、そのまま飲み込んだのが分かりました。おつりを数える間、ずっと足元を見ています。
「ありがとうございました」
いつもと同じ声で言いました。それ以上でも、それ以下でもない声です。
男性は小さく頭を下げて、引き戸を開けて出ていきました。厨房から先輩が顔を出して、片手を上げます。
「よく言い返さなかったな」
「うるせぇな、って言われたときは、正直きつかったです」
「でも最後、ちゃんと頭下げてたぞ」
窓際の席には、空になった皿と、きれいにそろえられた割り箸が残っていました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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