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「1回使っただけだから、全額返金してくれ」泥だらけの工具を持ち込んだ客。だが、店長が販売履歴を確認した結果

レジに置かれた泥だらけの工具
定年を迎えたあと、近所のホームセンターで働きはじめて三年目になります。
その日は平日の夕方で、レジには私と若い社員の二人が入っていました。
買い物客が増えはじめたころ、紙袋を提げた六十歳くらいの男性が、まっすぐ私のレジへ歩いてきました。
男性が袋から取り出したのは、電動ドライバーでした。
「これ、不良品だった。1回使っただけだから、全額返金してくれ」
本体を受け取ると、手のひらにざらりとした感触が残りました。
グリップの溝には乾いた土が入り込み、側面には泥がこびりついています。先端の金具も、角が丸くなるほどすり減っていました。
一度使用しただけとは思えない状態でしたが、私は決めつけずに確認します。
「恐れ入ります。レシートなど、当店での購入を確認できるものはお持ちでしょうか」
「そんなもの、とっくに捨てたよ」
男性によると、購入したのは半月ほど前だということでした。

拳で叩かれたレジ台
「申し訳ございません。購入履歴を確認できない場合、その場での返金はいたしかねます」
そう説明すると、男性の表情が一変しました。
「客が買ったって言ってるんだ。俺を疑うのか」
男性の拳がレジ台に落ち、置かれていた電動ドライバーが小さく跳ねました。
後ろに並んでいたお客さまたちが、一斉にこちらを見ます。
「店長を呼べ。話にならない」
私は若い社員にレジを任せ、店長を呼びに行きました。
その間にも列は伸び続け、売り場の通路まで達していました。

店長が確認した販売履歴
店長は男性の前に立つと、まず深く頭を下げました。
「お待たせいたしました。商品の状態と購入状況を確認させてください」
男性は腕を組み、同じ主張を繰り返します。
「半月前にここで買った。1回使ったら動かなくなったんだ」
店長は反論せず、本体に記載されたメーカー名と型番をメモしました。
そして、レジ横の端末で当店の販売履歴を調べます。
しばらく画面を確認したあと、店長は静かに男性へ向き直りました。
「こちらの型番ですが、当店では昨年に取り扱いを終了しております」
男性の眉がわずかに動きました。

「最後に販売した記録も、八か月前です。半月前に当店で販売した記録はございません」
「そんなはずないだろ。同じような店がいくつもあるから、記録が分からないだけだ」
「ほかの店舗で購入された可能性はございます。ただ、当店で購入された商品として返金することはできません」
店長は電動ドライバーを男性の前へ戻しました。
「故障の確認をご希望でしたら、メーカーの点検窓口をご案内いたします」
「点検なんていい。金を返せば済む話だろ」
「購入店舗や購入日が確認できないため、返金はできません」
店長の答えは変わりませんでした。
男性が持ち帰った電動ドライバー
男性は何か言い返そうとしましたが、後ろに並ぶお客さまたちの視線に気づいたようでした。
列の先頭にいた女性が、小さくため息をつきます。

男性は店長と端末の画面を交互に見たあと、電動ドライバーを紙袋へ押し込みました。
「もういい。二度と来ないからな」
そう言い残し、男性は早足で出口へ向かっていきました。
店長はその背中を追いかけることなく、列に向かって頭を下げます。
「長らくお待たせして、申し訳ございませんでした」
そして私の隣のレジを開けると、いつもと変わらない声で呼びかけました。
「こちらのレジもご利用ください」
感情的な相手に対しても、事実を一つずつ確認し、できることとできないことを明確に伝える。
店長の落ち着いた対応を見ながら、接客で本当に必要なのは、声の大きさではなく冷静さなのだと感じました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、60代以上・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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