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「だめ、今は絶対に笑ったらだめ」高い声の読経に戸惑った私。だが、読経を終えた僧侶にかけた一言

線香の匂いだけがしていた本堂で
親戚の葬儀に参列した日のことです。本堂は静まり返っていて、線香の匂いが漂っていました。私は末席に座り、膝の上で手を重ねていました。
やがて読経が始まりました。
私は勝手に、お経というものは低い声で淡々と続くものだと思っていました。ところが、その日の僧侶の声は思ったより高く、ときどき大きく響きます。
鈴の音もはっきりしていて、そのたびに私は少し驚きました。
もちろん、ふざけているわけではありません。真剣に読経されていることも分かっています。
それなのに、一度「声が高いな」と意識してしまうと、なぜかそこばかり気になってしまいました。
「だめ、今は絶対に笑ったらだめ」
そう思えば思うほど、口元に力が入ります。
私はとうとう顔を上げられなくなり、膝のあたりをじっと見つめていました。
隣に座っていた親も、さっきから妙に下を向いたままです。最初は具合でも悪いのかと思いましたが、声をかけられる雰囲気でもありません。
読経が続くあいだ、私はとにかく誰とも目を合わせないようにしていました。
終わった瞬間は、悲しさとは別の意味でも、ようやく息をつけたような気持ちでした。
会食の席で、親が小声で言った
そのあと会食の席へ移り、私は親の隣に座りました。
お茶が配られ、私が湯呑みに口をつけようとしたときです。親がこちらを見て、声を落としました。
「あんたも堪えてたやろ」
私は思わず親の顔を見ました。
「……分かった?」
「分かるわ。手、震えてたもん」
「そっちこそ、ずっと下向いてたやん」
そう返すと、親は口元を押さえました。
「だって、一回気になったらあかんわ。顔上げたら絶対あんたと目ぇ合うと思って」
私も同じことを考えていました。
二人で笑うわけにもいかず、しばらく湯呑みを見ながら肩を震わせていました。
そこへ、先ほど読経されていた若い僧侶が挨拶に来られました。
「本日はお疲れさまでした」
私たちも慌てて姿勢を正しました。
少し話したあと、親がためらいながら言いました。
「あの…よく通るお声ですね」
すると僧侶は、少し笑って答えました。
「そうなんです。昔から声が高くて。初めて聞く方には、驚かれることもあります」
その言い方があまりにも普通だったので、私はかえって肩の力が抜けました。
親も「そうなんですね」と笑いながらうなずきます。
すると近くにいた伯母が、「でも後ろまで、よう聞こえてましたよ」と声をかけました。
僧侶は少しうれしそうに、
「それならよかったです」
と頭を下げました。
帰りの車の中で、親がぽつりと言いました。
「あの人、別に何もおかしなことしてへんのにな」
「うん。こっちが勝手に意識しすぎただけやな」
そこでようやく、二人で少し笑いました。
笑ってはいけないと思うほど、なぜか笑いそうになることがあります。あの日の読経を思い出すと、今でも僧侶の声より、必死に下を向いていた親の姿のほうが先に浮かびます。
※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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