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「なんて恥ずかしいことをしたんだ」旅行帰りに乗ったグリーン車。だが、他の乗客が困っていたワケ

「なんて恥ずかしいことをしたんだ」旅行帰りに乗ったグリーン車。だが、他の乗客が困っていたワケ
下を向いて、くすくす笑っていた
家族で出かけた帰りだった。普通列車のグリーン車に、そろって乗り込んだ。うちは誰も交通系ICカードを持っていないので、乗る前に紙のグリーン券を買ってある。
「これ、失くさないようにね」
「大丈夫、こっちで持っているよ」
途中の停車駅から、何人かが同じ車両に乗ってきた。カードを持っている人は慣れた手つきだ。頭上の棚の近くにある読み取り部に当てると、ランプが赤から緑に変わる。それだけで、すっと席に座っていく。
ひとりだけ、手こずっている人がいた。紙のきっぷを読み取り部に押し当てては離し、角度を変えて、また押し当てる。
きっぷを裏返し、印刷された面を下にして当ててみる。ランプは赤いままだった。
反応するわけがない。私は下を向いて、くすくす笑っていた。
笑いながら、その人の手がふと止まったのが目に入った。
きっぷを持ち直して、周りをうかがっている。誰にも聞けずにいる顔だった。
私は笑うのをやめた。
(なんて恥ずかしいことをしたんだ)
面白がっていた自分が、急に決まりが悪くなった。知らなければ、誰でも同じことをする。
うちだって、家族が券を買っておいてくれなければ分からなかった。
通路を進んで、声をかけた
座席の背に手をかけて立ち上がった。責める話でも、教えてやる話でもない。
知らないだけの話だ。通路を進んで、なるべく普通の声で言った。
「その紙のきっぷ、電車の読み取りには反応しません」
手が止まった。それから私の指した先ときっぷを見比べて、意味が分かったらしく、表情がゆるんだ。
きっぷを持つ指から、力が抜けていくのが見えた。
「紙のきっぷをお持ちなら、読み取り部は使わなくていいんです。そのまま席にいて大丈夫ですよ」
「そうなんですか。壊れているのかと思って、ずっと当てていました」
「うちも家族の分をまとめて買ってきたので、同じ紙です」
その人は何度も頭を下げた。助かりました、ありがとうございます、と繰り返す。近くの席の人が顔を上げて、笑って口を挟んだ。
「私も最初は分からなくて、同じことをやりましたよ」
小さな笑い声が起きて、こわばっていた車内の空気がほどけた。誰も、この人を笑ってはいなかった。
その人はきっぷを手に、落ち着いて席に座った。窓のほうを向いた背中から、さっきまでの力みが消えていた。
降りる駅が近づくと、その人は荷物を持って、わざわざ私の席まで来た。もう一度深く頭を下げて、扉のほうへ歩いていく。私は座ったまま会釈を返した。
笑って見ているだけにしなくてよかった。窓の外を、夕方の景色が流れていった。
※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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