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「駐車場は入り口の一番近くを空けて」毎月のように泊まりに来る夫婦。増えていく要求に引いた線とは

「駐車場は入り口の一番近くを空けて」毎月のように泊まりに来る夫婦。増えていく要求に引いた線とは
毎月のように来る、羽振りのいいご夫婦
四十代の頃、私はリゾートホテルの受付で働いていた。
ファミリー向けの、料金もごく一般的な宿だ。
夏休みには子ども連れでロビーがにぎわう、そういうホテルだった。
そこへ毎月のように泊まりに来るご夫婦がいた。七十代くらいだろうか。商売はもう次の世代に譲ったそうで、ご主人は自分のことを名ばかりの社長だと笑って話していた。
「うちはもう子どもに全部任せてるからね。あとは遊んで暮らすだけ」
身なりは立派で、実際に羽振りもよかった。
ただ、そのぶん求めるものも大きかった。
玄関に車が着くたび、ご主人は窓を下ろしてこう言う。
「駐車場は入り口の一番近くを空けて」
助手席の奥様も、当たり前のように続けた。
「お部屋は眺めのいいところにしておいてね。いつものことだから」
できる範囲では応じてきた。空いていれば入り口寄りの枠へ案内したし、部屋も残っていれば景色のいい側にした。
お金を出しているのだから最高のサービスを、と言われれば、笑顔で頭を下げるのが仕事だと思っていた。
笑顔のまま、線を引いた日
けれど、応じるほどに求められることは広がっていった。
チェックインの時間より早く部屋を開けてほしい。食事の時間を過ぎてから出してほしい。隣の駐車枠も空けておいてほしい。
気づけば、他のお客様に向けるはずの手が足りなくなっていた。
ある日の午後、私は受付でご夫婦を迎え、いつも通りの笑顔のまま、一つずつ区切って伝えた。
「駐車場は、お越しになった順にご案内しております」
「お部屋は当日の空き状況で決まりますので、お約束はいたしかねます」
できることも同じ調子で並べた。お荷物はお運びできること、傘はお貸しできること。できないことだけを突きつけたら、それはただの拒絶になってしまう。
声を荒らげもしなかったし、嫌な顔もしなかった。ただ、線だけははっきり引いた。
ご主人は口をへの字にして奥様と顔を見合わせ、不服そうにしながらも、何も言い返さずに鍵を受け取って階段を上がっていった。
もう来ないかもしれない、と思った。それでも、あれは言うべきことだったと自分では納得していた。
ところが次の月も、二人はやって来た。
要求はずいぶん減っていて、車は空いている枠にそのまま停めていた。鍵を渡すとき、ご主人が私の顔を見て笑った。
「あんたはちゃんと言うこと言うね」
胸のつかえが、すっと下りた。
線を引いたから終わるのではなく、線を引いたからこそ続く関係もあるのだと、あのとき初めて知った。
※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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