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「うちの子、いま教室にいますか」毎日かかってきていた電話。お子さんが高校生になって気づいたのは

五時を過ぎると鳴る一本
学習塾の受付で、保護者の方の対応をしていたころの話です。
夕方の五時を過ぎると電話が立て込みます。受話器を置いた手で、そのまま次を取る時間帯でした。
その中に、毎日かかってくる一本がありました。中学生のお子さんの、お母様です。
「うちの子、いま教室にいますか」
到着の確認だけなら一分で終わります。ただ、たいていはそこから続くのです。
「席は前のほうにしてもらえます?あの子、後ろだと集中しないから」
声はいつも明るくて、早口でした。
話が途切れると、ご自身の学生時代に移ります。
「私も昔は、模試でずっと上のほうにいたのよ」
「そうだったんですね」
相槌を打ちながら、他の回線の点滅を目で追います。
鳴らなくなった記録簿
お子さんが高校生になり、受験の学年に上がりました。
模試の結果が、望まれていた形にならない時期が続きます。
正直に言えば、私は身構えていました。
これまでの調子なら、真っ先に受付の電話が鳴る。そう思っていました。
ところが、鳴りませんでした。
一週間、二週間。三週目の金曜日に、私は電話の記録簿を最初のページから見返しました。
あの名前が、どこにもありません。
「最近、静かですね」
「そうでしたっけ」
社員の先生は、それだけ言って教室へ戻ります。電話が減れば、仕事は回るのです。誰も困っていませんでした。
駐車場の窓の内側
迎えの時間になると、受付のカウンターまで来られる方でした。
いつも急いでいるような歩き方だったのを覚えています。
その日は、駐車場に停めた車から降りてきませんでした。
ガラス越しに会釈をしようとすると、顔が下を向きました。
次の週も、その次の週も同じでした。私が手を上げるより先に、車のライトが動きます。
お子さんがドアを閉めると、そのまま駐車場を出ていかれました。
髪をまとめる位置も、歩く速さも、以前とは変わっていました。何があったのかは分かりません。伺える立場でもありませんでした。
三月の終わりに、退塾の書類が郵送で届きました。
窓口にも、電話にも、最後まで声はありません。
「あのお母さん、結局なにも言ってこなかったですね」
「…そうですね」
記録簿を閉じて、私は受話器の位置を直しました。10年経った今も、夕方の五時を過ぎて電話が鳴ると、いちど手が止まります。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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