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「今は気分が乗らない時間帯なの」配達するたびに小言を言う住人。理不尽な言い分に感じた本音

「今は気分が乗らない時間帯なの」配達するたびに小言を言う住人。理不尽な言い分に感じた本音
指定どおりに着いたのに
宅配の仕事をしていたころ、担当していた住宅街に一軒だけ、伺うたびに手のひらが汗ばむ家がありました。
冬は日が落ちるのが早く、その家に着くころには玄関灯だけが白く点いています。
伝票の指定は午後六時から八時で、私がインターホンを押したのは六時十分でした。
その時間帯に丸を付けたのは、依頼主であるその家の方です。
「遅い。なんで今なの」
細く開いたドアの隙間から、低い声が飛んできました。
「申し訳ありません。六時から八時のご指定で承っておりました」
「そういうことじゃない。今は気分が乗らない時間帯なの」
気分、と繰り返しそうになって飲み込みました。
「失礼いたしました。お荷物、こちらになります」
差し出した箱に、手は伸びてきません。
「開けろと言われたから開けたけど、受け取る気分じゃないの」
毎回、別の理由
「かしこまりました。あらためてお持ちします。ご都合のよい日時をうかがえますか」
「そんな面倒なこと言わないでよ」
その夜は結局、荷物を抱えて階段を下りました。
持ち戻りの理由を伝票に書こうとして、書ける言葉がひとつも見つかりません。
次の週も、その次の週も、同じドアの前に立ちます。
二度目に言われたのは、声のことでした。
「あなたの声、気に入らない」
三度目は、足元です。
「靴の音、うるさいのよ」
四度目は、インターホンでした。
「二回押したでしょ。一回でいい」
荷物への文句も、配達そのものへの不満も、一度として出てきません。
怒る理由だけが、毎回きれいに入れ替わっていくのです。
静かに閉まったドア
営業所で先輩に話すと、少し黙ってから私の伝票を覗き込みました。
「その家、前の担当も同じこと言ってたよ」
「同じことって」
「毎回、怒ってる理由が別なんだって」
五度目の夜、ドアはいつもより静かに開きました。身構えた私の前で、その人は抑揚のない声で言いました。
「次から、別の人にして」
「かしこまりました。承ります」
それだけで、ドアは閉じました。
表札も、玄関マットの位置も、初めて伺った日と何ひとつ変わっていません。
担当が替わってしばらく経ったころ、後任になった後輩が事務所で荷物を仕分けながら言いました。
「あの家、今日は何も言われませんでした」
「そう」
「明日、何を言われるかが怖いです」
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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