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「指定券?持ってないよ」空席を渡り歩いた乗客。だが、男に待っていた車掌の一言

「指定券?持ってないよ」空席を渡り歩いた乗客。だが、男に待っていた車掌の一言
私たちの席に座っていた人
友人と二人で、新幹線に乗って旅行に出かけた日のことでした。
切符に書かれた12号車まで歩いていくと、私たちの座席に知らない男性が座っています。
窓側に体を預けて、外を眺めていました。
「すみません、そこ、私たちの席だと思うのですが」
声をかけると、男性はゆっくりこちらを向きました。
「ああ、そう」
それだけ言って、すっと立ち上がります。謝るでもなく、慌てるでもありませんでした。
荷物棚にも足元にも、この人のものは何ひとつありません。
男性はそのまま通路を歩いていき、デッキの扉を抜けて前の車両へ消えていきました。
私たちは顔を見合わせてから、荷物を棚に上げて腰を下ろします。
「番号を見間違えたのかな」
友人が首をかしげます。私は最初に声をかけたとき、あの人は本当に間違えたのだと思っていました。
戻ってきた新聞
発車してしばらくすると、車掌が検札に回ってきました。
「ありがとうございます。行ってらっしゃいませ」
私たちの切符を確かめて、車掌は次の列へ進んでいきます。
車内はすっかり静かになりました。
ところが、それから十分ほど経ったころです。デッキの扉が開いて、さっきの男性が戻ってきました。
男性は少し先の、誰も座っていない指定席にどさりと腰を下ろします。
鞄から新聞を出して、大きく広げはじめました。
「ねえ、あの人」
友人が声をひそめます。空いている指定席を、車両ごと渡り歩いているようでした。
私たちが見ただけでも、席を移ったのは3回目です。
「終点まであれを続ける気なのかな」
友人は呆れたように肩をすくめます。それでも、こちらから声をかける筋合いでもありません。
窓の外の景色だけが、後ろへ流れていきました。
拝見いたします
停車駅をひとつ過ぎたころ、車掌がふたたび通路を歩いてきました。2度目の巡回です。
車掌は新聞を広げている男性の前で、足を止めました。
「お客様、乗車券と指定券を拝見いたします」
男性が新聞から顔を上げます。
「指定券?持ってないよ」
そこで言葉が途切れました。上着のポケットに手を入れかけて、そのまま止まります。
新聞を持つ手が、ゆっくり下りていきました。
車掌の声は、最初とまったく変わりません。
「自由席は後方の車両でございます。ご案内いたしますね」
責める調子はどこにもありませんでした。車掌はそのまま先に立って歩き出します。
男性は新聞をたたみ、黙ってその後ろについていきました。
扉が閉まると、車両にはもとの静けさが戻りました。
「戻ってこないね」
友人がそう言ったきり、あの男性が姿を見せることはありませんでした。
私たちは窓の外の景色を眺めながら、目的地まで静かに過ごしました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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