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「うちの金魚を食べたろ」猫がいたずらをしたと主張する近隣住民。だが、母の主張に折れた瞬間

「うちの金魚を食べたろ」猫がいたずらをしたと主張する近隣住民。だが、母の主張に折れた瞬間
向かいの部屋から来た人
まだ母と集合住宅で暮らしていたころ、もう二十年以上前の話です。
うちの玄関の前には、いつからか野良猫が居つくようになっていました。
特に餌をあげたわけでもないですが、よくうちの前に現れます。
夏の夕方でした。廊下にはよその家の煮物の匂いが流れています。玄関の戸を強く叩く音がして、開けると向かいの部屋の女性が立っていました。
五十歳くらいの人で、顔が赤く、息が上がっています。
「うちの金魚を食べたろ」
言われている意味が、すぐには飲み込めませんでした。
留守にしている間に猫が入り込んで、水槽の魚を食べた。そういう話でした。
「中が空っぽなんだよ。うちの前を通るのは、あの猫くらいだろう」
声が廊下に響いていきます。私は口を挟まず、黙って聞いていました。
鉄の扉と、鍵の話
その建物は、どの部屋の玄関も分厚い鉄の扉です。大人でも肩で押さないと開かないほど重く、猫の力でどうにかなるものではありません。
私は三和土に立ったまま、どう返したものかと考えていました。
「留守にするとき、鍵はどうされてますか」
台所から出てきた母が、静かに聞きました。声を張ってはいません。
「当たり前だろう。締め切って出てるよ」
「猫の手では、鍵のかかった鉄の扉は動きませんよ」
それだけでした。女性の口が半分開いたまま止まります。
「……いや、でも、窓は」
言いかけて、その人は自分で黙りました。
窓も閉めて出た、と先に言ってしまった後だったんです。廊下の奥から、別の部屋の住人がそっと顔を出していました。
「……もういい」
女性はそちらを一度見て、私たちに背を向けました。向かいの鉄の扉が閉まって、鍵をかける音がはっきり聞こえます。
扉が閉まったあと
母は戸を閉めて、しばらく黙っていました。それから、どちらからともなく吹き出したんです。
「ずっと心臓が鳴ってたわ」
「金魚、どこに行ったんだろうね」
笑いながらも、母は皿を持って外に出ていきました。猫はいつもの場所に座っています。
「あんた、しばらくここから動かないでよ。また疑われるから」
猫は返事もせず、母の足元で寝そべっていました。あれから何度も廊下ですれ違いましたが、あの人が金魚の話をすることは二度とありませんでした。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、60代以上・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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