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「全然見えないんだけど!」子どもの発表会の日、開演の直前に前の席へ座った人。困った私を救ったのは

開場と同時に入った席
子どもの発表会の日でした。
開場の時間ちょうどに会場へ入り、中ほどの列のはしに座って、ビデオカメラを三脚に載せます。
舞台の中央に画面を向けたとき、前の列はまだ空いていました。
「そこ、映りますか」
隣に座っていた年配の女性に聞かれて、画面を見せました。
孫の発表を見に来たのだと言います。
「きれいに撮れるのね。うちはこの目で見るだけよ」
やがて客席の照明が落ちて、幕が開きました。
最初は全校の合唱です。
前列の小さい子が、思いきり口を開けて歌っています。
二番目は低学年の劇でした。
台詞をとばした子に、袖から先生の声がそっと届きます。会場に笑いが起きて、拍手が長く続きました。
前の席に立った三脚
次が、うちの子の学年の出番でした。
プログラムを膝に置いて、録画ボタンに指をかけたときです。
入口の扉が開いて、コートを腕にかけた人が早足で入ってきました。
空いていた私の前の席に、荷物を置いて腰を下ろします。
そこまでは、よくあることでした。
その人が袋から大型の三脚を取り出し、脚を広げはじめたときに、手が止まりました。
三脚は、私のカメラの正面に立ちました。
(全然見えないんだけど!)
画面の中の舞台が、黒い脚と背中で半分ほど隠れます。
「あの…」
声が小さすぎたのか、その人はこちらを見ませんでした。高さを合わせるのに夢中で、振り返る様子もありません。
荷物をまとめて、後ろの空席へ移ろうと腰を浮かせました。ちょうど、司会の先生が学年の名前を読み上げたところです。
静かに届いた一声
そのとき、隣の女性が身を乗り出しました。怒った声ではありません。
舞台を見たまま、前の席へ静かに言葉を落とします。
「後ろの方が見えないと思いますよ」
その人の肩が、はっきり跳ねました。振り返って、私のカメラと自分の三脚を順番に見ます。
「すみません、気がつかなくて」
脚を縮めて、三脚を膝の上に抱え直しました。それから、もう一度振り向きます。
「これで、見えますか」
「はい。ありがとうございます」
画面の中の舞台は、元どおりでした。私は座ったまま、録画ボタンを押します。
幕の奥からうちの子が歩いてきて、真ん中の立ち位置で足を止めました。隣の女性が、膝の上で小さく手を叩いています。
発表が終わって照明が明るくなると、前の人が三脚を抱えたまま、こちらへ小さく頭を下げました。ひと言あれば、それで済んだことでした。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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