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「そんなに持ってくの?」バイキングで山盛りに料理を持って行く客。だが、スタッフが丁寧に対応した結果

湯上がりの夕食会場で
夏休み、家族で泊まりに来た温泉旅館の夕食は、豪華なバイキングだった。
湯上がりの浴衣姿でにぎわう会場に、湯気の立つ蟹や、つやのある刺身が並ぶ。
子どもたちは目を輝かせて、どれから取ろうかとお皿を抱えていた。
ところが、会場の中央あたりのテーブルが、やけに騒がしい。
中高年のグループが、周りを気にせず大声で笑い合いながら、蟹や刺身を山盛りに自分たちの皿へと運んでいた。
(そんなに持ってくの?)
トングを握った手が、次々と大皿を空にしていった。
後ろに並んでいた小さな子ども連れの家族が、困った顔で立ち尽くす。
うちの子も、空になったバットの前で「もうないの?」と私を見上げた。
せっかくの旅行の夕食なのに、人気の料理はことごとくあのテーブルへ吸い込まれていく。周りの客も、言い出せないまま、ただ視線を落としていた。
静かに、けれどはっきりと
見かねた会場のスタッフが、やわらかく声をかけた。
「皆さまで楽しんでいただきたいので、少しずつお取りいただけますか」
すると、グループの一人が声を荒らげた。
「こっちは金払って来てるんだ。文句あるのか」
周囲の空気が、すっと凍る。
誰もが目を伏せ、会場のざわめきが一瞬止まった。
声をかけたスタッフは言葉に詰まり、うつむいてしまう。
そこへ、奥から一人の男性が歩いてきた。
落ち着いた物腰の、旅館の支配人だった。声を張るでもなく、けれどまっすぐに、その人はグループの前に立った。
「お客様、どうぞごゆっくりお召し上がりください。ただ、こちらは皆さまが平等にお楽しみいただくためのご案内です。後ろのお客様も、お待ちですので」
怒鳴り返そうとした男性が、言いかけて口をつぐむ。支配人は表情を変えず、静かに続けた。
「お料理はすぐにお持ちします。順番に、どうぞ」
グループは顔を見合わせ、ばつが悪そうに皿を抱えて、そそくさと席へ戻っていった。
あれほど大きかった声は、もう聞こえない。
ほどなくして、補充された蟹の前に、さっきの子ども連れの家族が並べるようになった。
うちの子も、ようやく刺身を一切れ、うれしそうにお皿へのせる。凍りついていた会場に、少しずつ、いつものにぎわいが戻っていった。
「ちゃんと言ってくれる人がいるって、いいね」
隣で夫が、そっとつぶやいた。豪華な料理よりも、あの静かな一言のほうが、ずっと記憶に残る夜になった。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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