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「お弁当、そろそろ広げますね」施術中の美容室で堂々と食事を始めた親子を、店長が丁寧に止めた夜

「お弁当、そろそろ広げますね」施術中の美容室で堂々と食事を始めた親子を、店長が丁寧に止めた夜
施術中に広がったお弁当
美容師として働いていた頃の話です。その日は、小さなお子さんを二人連れたお母さんが、カットのご予約でいらっしゃいました。
お子さんたちは待つのに飽きたのか、店内をうろうろと落ち着きません。お母さんは席に着き、鏡の前でケープを掛けたところでした。
「ママ、おなかすいた」
「はいはい、いま準備するからね」
そう言って、お母さんは足元の大きな鞄を、ごそごそと探り始めました。取り出したのは、家庭でよく使うような、大きなお弁当箱です。
ふたを開けると、卵焼きやおにぎりが、ぎっしりと詰まっていました。彩りも良く、朝から手をかけて作ってきたことがうかがえます。
「お弁当、そろそろ広げますね」
そう言うと、お母さんは膝の上に弁当箱を広げ、お子さんたちにも箸を手渡していきます。
「ほら、こぼさないように食べなさい」
「わたし、おにぎりがいい」
お子さんが食べるだけなら、まだ分かります。小さな子は待つのが辛いものですし、ご家庭それぞれの事情もあるでしょう。けれど私が言葉を失ったのは、その後のことでした。
店長が丁寧に止めてくれた夜
お子さんに続いて、お母さん自身も箸を取り、鏡の前で堂々とおかずをつまみ始めたのです。
「うん、やっぱり家のごはんが一番ね」
カットの合間、髪を切る私のすぐ手元で、ごはんの匂いがふわりと立ちのぼります。切った髪がお弁当に落ちてしまわないか、私は気が気ではありませんでした。うちの店ではドリンクや小さなお菓子をお出ししているだけに、「ご遠慮ください」とはどうしても切り出せず、はさみを持つ手が止まりかけます。
そのとき、様子に気づいた店長が席のそばへ歩み寄り、お客様と目線を合わせて、柔らかく声をかけたのです。
「お食事中に失礼いたします。申し訳ないのですが、施術中の店内でのお食事は、皆様にご遠慮いただいているんです。よろしければ、終わってからごゆっくりなさってくださいね」
角の立たない、それでいて毅然とした一言でした。お母さんは一瞬きょとんとしてから、ばつが悪そうに箸を置きます。
「あら……そうよね、ごめんなさい。気がつかなくて」
「とんでもございません。お子様の分は、こちらのお席でどうぞ」
店長はそう言って、お子さんたちを待合のソファへにこやかに案内します。お母さんも素直に弁当箱のふたを閉じ、鞄へしまい直しました。鏡の中の空気が、すっと元の美容室に戻っていきます。
私が言えずにいた一言を、店長は品よく角を立てずに伝えてくれた。張りつめていた肩の力が抜け、私はようやく落ち着いてはさみを動かせるようになりました。あの夜救われた気持ちは、今でもはっきりと思い出せるのです。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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