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「預かってる犬なんです」黙っててくださいと言われた私が、最後まで口にしなかった本音

「預かってる犬なんです」黙っててくださいと言われた私が、最後まで口にしなかった本音
夜だけ聞こえる声
引っ越して二か月ほど経った頃から、隣の部屋から小さな鳴き声が届くようになりました。日中は静かで、決まって夜の九時を過ぎてからです。
「キャンキャンって、聞こえない?」
「気のせいだろ」
夫はテレビの音量を上げました。この建物は、動物を飼えない決まりです。
隣は、私より少し若い女性です。ごみ捨て場で会えば会釈をする間柄でした。
(テレビの音かもしれない)
そう思うことにして、壁の向こうに何も言いませんでした。
廊下で目が合った朝
ごみ袋を提げて廊下に出たところでした。隣の扉が内側から開いて、白くて小さな犬が飛び出してきます。
「あっ」
声が重なりました。犬はリードを引きずったまま、私の足元でしっぽを振っています。追ってきた隣の方は、扉の枠に手をついたまま動きません。
「預かってる犬なんです」
そのあと、言葉が続きません。
「姉が入院して、それで、うちで。だから、黙っててください」
犬を抱き上げて、扉は閉まりました。私は返事をしないまま、袋を提げて立っていました。
その日から、すれ違うたびに目を伏せられるようになりました。夜の鳴き声は前より小さくなり、声を出させまいと抱えているのが壁越しにも伝わってきます。
扉の前に立っていた人
月の終わりの夕方、チャイムが鳴りました。扉を開けると隣の方が立っています。腕には、あの犬がいました。
「先日は、失礼なことを言いました」
「いえ」
「管理会社に、自分から相談してきました」
一時的に預かる場合は期間を決めて届け出れば認められる決まりがあり、姉が退院するまでの三か月、書面で許可が出たそうです。
「黙っててくださいなんて、言うことじゃなかったです」
深く頭を下げられました。
「話してくださって、よかったです」
隣の方は腕を下ろしました。
犬が床に降りて、廊下を掃くようにしっぽを振ります。
それから、夕方にリードを持って出ていく姿を見かけるようになりました。廊下で会えば、目を伏せずに会釈をしてくれます。
言わずにおいた言葉が、ひとつだけあります。黙っていてほしいと言われたあの朝から、私はずっと隠しごとを預かる側でした。それを重いと感じていたことは、最後まで口にしていません。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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