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「香典袋に小銭だけ、入れてきたのか」葬式の受付をひとりで任された私→袋を開けて思わず漏らした一言

受付は男の仕事だと言われた
田舎の親戚が亡くなったと連絡が入り、父の代わりに葬儀へ出ることになりました。台所では女性の親戚たちが煮物の鍋を並べ、弔問客にお茶を出しています。男の手が入る場所ではありませんでした。
「あんたは受付な。名前を書いてもらって、袋を預かるだけでええから」
喪主の従兄にそう言われて、玄関脇の長机に座りました。筆ペンと芳名帳、それから袋を入れる木の箱がひとつ置いてあります。
付き合いがあったのは親の代までで、記帳していく人の顔にも屋号にも覚えがありません。
「遠いところを、ありがとうございます」
「お父さんによろしく言うといてな」
頭を下げて、袋を受け取って、また頭を下げる。長靴のまま来た人も、自転車を押してきた人もいました。
箱の底で、音が鳴った
読経が終わって会葬者が帰ったあと、帳場の座敷で中身をあらためる役も回ってきました。
「金額と名前、突き合わせてくれるか」
従兄が帳面と電卓を置いていきました。結婚式のご祝儀なら数万円ですが、一般の会葬者の香典は一人あたり数千円です。
3000円、5000円と数えながら、名前の横に書き写していきました。
十袋ほど進んだところで、指先の感触が変わりました。封を逆さにすると、100円玉と10円玉が座卓の上に転がります。集めて数えると、320円でした。
「香典袋に小銭だけ、入れてきたのか」
声に出してしまってから、襖の向こうに人がいないことを確かめました。同じような袋が、そのあと二つ出てきます。
帳面には、そのまま書いた
書かないわけにはいきません。名前の横に320円と記して、私は筆ペンの蓋を閉めました。
湯呑みを運んできた叔母が、帳面をのぞき込んで座りました。
「今年は米が不作でな。あのへんの家は、田んぼを人に貸しとるよ」
「……そうなんですか」
「あの世代は、行かんと義理を欠くと思うんよ。歩いてでも来る」
叔母はそれだけ言って、また台所へ戻っていきました。
袋の宛名は、どれも震えた字でした。財布の中を何度も数えてから、あの袋に硬貨を入れた人がいたのかもしれません。
確かめる方法は、もうありません。
祭壇の遺影は、少し口を開けて笑っています。この人なら、320円の袋をどんな顔で受け取っただろうか。座敷でしばらく考えても、答えは出ませんでした。
帳面を閉じて、私は箱の底に残った小銭を、指で一枚ずつ拾い集めました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、50代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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