Share
「立っての撮影は、ご遠慮ください」運動会で他の保護者の視界を遮ってしまった父親。だが、3度目のアナウンスで見せた顔とは

自由席の朝
娘の運動会は自由席で、開場と同時に保護者が一気に流れ込みます。
私も朝いちばんに並んで、本部テントの斜め後ろにシートを広げました。
隣に来たのは、カメラを首から下げた男性でした。
四つ折りのシートを勢いよく開くと、端がこちらの家族の場所まで伸びてきます。
「ここ空いてますよね」
確認というより、もう決めた口調でした。
妻が荷物を寄せて、私たちは膝を抱えるかたちで座り直します。
前の列の家族が、こちらを見て少しだけ眉を上げました。
妻が肩をすくめて、プログラムを膝の上で開き直します。
立ったままのレンズ
競技が始まると、その男性は立ち上がりました。
両手でスマートフォンを高く構えて、トラックのほうへレンズを向けています。
座ったままの私たちの視界は、その背中でふさがれました。
トラックの白線は、手前の半分しか見えません。
後ろの列は、もっと見えていないはずです。
しばらくして、本部テントから放送が入りました。
「立っての撮影は、ご遠慮ください」
背中は動きません。
二つ目の競技が終わるころ、二度目の放送がありました。
「後ろの方が見えにくいので、立っての撮影はご遠慮ください」
それでも変わりませんでした。
周りの保護者は顔を見合わせて、苦笑いのまま座っています。誰も声をかけません。
3度目の放送が流れて
娘の学年の出番が近づいたころ、3度目の放送が流れました。先生の声は、それまでと同じ落ち着いた調子です。
「周りの方が見えなくなるので、座ってご覧ください」
男性がスマートフォンを下ろして、初めて振り返りました。
後ろには、折りたたみ椅子に座ったおばあさんと、その膝にいる小さな子がいます。
顔から、それまでの構えが抜けました。
何か言いかけて、口を開いたまま止まります。
目線が下がって、自分の足元のシートに座りました。
男性はその場にしゃがみ、伸びていたシートの端を手前にたたみ込みます。
「すみません、広げすぎてました」
「いえ、助かります」
それだけ返して、私も膝の位置を戻しました。前の列の家族がうなずくのが見えます。
男性は最後まで座ったまま、腕だけを伸ばして撮っていました。
徒競走で娘が二着になった瞬間、私の横で拍手の音がひとつ増えます。
同じ放送は、その日それきり流れませんでした。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


