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「順番はまだだよ、オオカミくるよ」セリフのない木の役の子が叫んだ瞬間に、会場が大笑いした理由

画用紙の葉っぱを貼った衣装
生活発表会の一か月前になると、園の廊下には劇で使う道具が少しずつ増えていきました。
段ボールで作った家や、毛糸を束ねたしっぽ、画用紙を切り抜いた葉っぱ。
お迎えに行くたびに、その日できあがった物が壁際に並んでいました。
「きょうね、木さんの立つところを決めたんだよ」
演目は「オオカミと七匹の子ヤギ」です。
うちの子は子ヤギの役をもらっていました。
舞台の左右には、森を表す木の役の子たちが立ちます。
画用紙の葉っぱを貼った衣装を着て、腕を枝のように広げたまま、じっと立っている役です。
セリフはありません。
それでも先生は、子どもたちにこう説明したそうです。
「木さんがいないと、ここが森だって分からないからね。とても大事な役なんだよ」
木の役になった子は、その言葉がうれしかったのでしょう。
練習が始まると、いつも真っ先に自分の立ち位置へ向かっていたと、先生が連絡帳に書いていました。
早く出てきたオオカミ
発表会当日、ホールは大勢の保護者で埋まっていました。
前の列ではお父さんがカメラを構え、通路側のおばあさんは膝の上にハンカチを置いています。
音楽が流れ、幕が開きました。
段ボールの家の前に子ヤギたちが並び、舞台の両端では木の役の子たちが腕をいっぱいに広げています。
「おかあさんヤギは、まちへおでかけしました」
ナレーションの子が、練習どおりに読み上げました。
次は、子ヤギたちが家の中で遊ぶ場面です。
オオカミが扉を叩くのは、もう少し先でした。
ところが、舞台袖で待っていたオオカミ役の子が、自分の出番だと思ったのでしょう。
突然、舞台の上へ飛び出してきたのです。
子ヤギたちは驚いて、一斉に動きを止めました。
そのとき、舞台の端に立っていた木の役の子が、大きな声を上げました。
「オオカミさん、まだだよ!」
マイクを使っていないのに、いちばん後ろの席まで届くほどの声でした。
木の役の子が支えたもの
オオカミ役の子は、その場でぴたりと止まりました。
自分が早く出てしまったと気づいたものの、どうすればよいのか分からない様子です。
子ヤギ役の子たちも戸惑い、家に隠れようとする子と、その場に立ち尽くす子に分かれました。
「まだ隠れちゃだめだよ」
「でも、オオカミきちゃったよ」
子どもたちが慌てて段ボールの家へ集まったため、家がぐらりと傾きました。
すると、先ほど声を上げた木の役の子が、枝のように広げていた腕を下ろし、すぐに家を支えました。
客席から、小さな笑い声が起こります。
決められた役を忘れて家を押さえる姿が、あまりにも一生懸命だったからです。
やがて、その笑いはホール全体に広がりました。
けれど、それは失敗を笑う声ではありません。
慌てながらも何とか劇を続けようとする子どもたちを、温かく見守る笑い声でした。
客席の反応に安心したのか、舞台の子どもたちの表情も少しずつやわらぎました。
ナレーションの子が、もう一度台本の言葉を読み上げます。
「しばらくすると、オオカミがやってきました」
それを聞いた木の役の子は、オオカミ役の子へ向かって大きくうなずきました。
「いまだよ!」
今度は客席から大きな拍手が起こりました。
オオカミ役の子は胸を張り、段ボールの家の前へ進みます。
「おなかがすいたぞ。子ヤギを食べにきたぞ」
少し順番は変わってしまいましたが、劇はそのまま最後まで続きました。
幕が下りる直前、家を支えていた木の役の子も元の場所へ戻り、もう一度、腕を枝のように高く広げました。
セリフのない役でしたが、その日、誰よりも舞台を支えていたのは、画用紙の葉っぱを貼った衣装のあの子だったと思います。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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