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「ランチはルー少なめ、ご飯は80グラム」グラム単位で注文する常連客の注文を、私が顔も見ずに当てられた日

「ランチはルー少なめ、ご飯は80グラム」グラム単位で注文する常連客の注文を、私が顔も見ずに当てられた日
グラムで頼まれた一皿
個人でやっている小さなカレー屋で、二年ほど接客をしていました。
カウンターが七席、テーブルがふたつだけの店です。
その注文を初めて聞いたのは、働きはじめて間もないころでした。
「ランチはルー少なめ、ご飯は80グラム」
顔を上げると、四十代くらいの男性が財布を出しながら立っています。
「ご飯の量、少なめでよろしいでしょうか」
「少なめだと120あるでしょう。80でお願いします」
メニューに少なめの欄はありますが、グラムの指定を受けたのは初めてでした。
厨房に伝えると、店長は嫌な顔ひとつせず、棚からキッチンスケールを出してきます。
「できるよ。ちょっと時間もらうけどね」
チキンカツカレー、ルー少なめ、ご飯80グラム、ほうれん草のトッピング。その日から、この四つがひと組になりました。
火曜と木曜と土曜
その人は週3で来ます。火曜、木曜、土曜。入ってくる時間まで、だいたい同じでした。
そして注文が、一度も変わりません。
夏野菜の限定が出ても、冬に煮込みのメニューが並んでも、頼むのはチキンカツカレーです。
「今日は限定、いかがですか」
「うまそうだね。いつものにするよ」
ダイエットかと思ったこともありました。
ただ、週3でカツの乗ったカレーを食べにくる人が、カロリーを気にしているはずもありません。
厨房では、スケールがもう定位置に置かれていました。
雨の日も、風の強い日も、その人は同じ時間に引き戸を開けます。
傘立ての一番端に傘を差すところまで、いつも同じでした。
顔を見る前に出た言葉
土曜の昼、デリバリーの注文票がプリンタから流れてきました。
備考欄に、ルー少なめ、ご飯80グラム、ほうれん草追加と並んでいます。
「店長、これあの方ですよ」
「名前も住所も見てないだろ、お前」
「見なくても分かります」
伝票を裏返すと、いつもの名字がありました。店長が声を出して笑います。
次にその人が来たのは、その週の火曜でした。引き戸が開く音がして、私は伝票を取る前に口が動いていました。
「チキンカツカレー、ルー少なめ、ご飯80グラムですね」
足音が止まりました。
「……もう覚えられてるのか」
耳のあたりが赤くなっています。カウンターの端に座って、おしぼりで手を拭きながら、少し早口になりました。
「残すのが嫌なんだよ。80だと、ちょうど食べきれるから」
「ほうれん草は、どうしてですか」
「ここのが一番うまいから」
厨房の奥で、店長がスケールを引き寄せる音がしました。
「80、入ります」
その日から、その人は座る前に注文を言わなくなりました。
代わりに、引き戸のところで片手を小さく上げるようになったんです。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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