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「兄ちゃん、どこまで行くの」新幹線で酔っ払って絡む乗客。だが、車掌がデッキへ導いた静かな一言

通路を歩いてきた足取り
出張の帰り、新幹線の窓側で資料を広げていたときのことです。
発車から三十分ほどで、通路のほうから物音がしました。
顔を上げると、男性がふらつきながら歩いてきます。
手には缶を持ったままで、足取りは千鳥足でした。
体が傾くたび、座席の背もたれに肩から強くぶつかります。
「うわ、ごめんな」
ぶつかられた乗客は、無言で会釈を返しただけでした。
男性はそのまま、隣の列の人に話しかけ始めます。
「兄ちゃん、どこまで行くの」
相手は本に目を落としたまま、答えませんでした。
それでも男性は、次の列の人にも同じことを聞いています。
静かに過ごすはずの車内が、一気に張り詰めたのが分かります。
歩いてきた車掌
ほどなくして、連結部の扉から車掌が入ってきました。
小走りではなく、いつもの巡回と同じ歩き方です。
「お客様、少しよろしいでしょうか」
男性は車掌のほうを向いて、缶を軽く持ち上げました。
「車掌さん、もう1本くらいいいだろ」
周りの席から、小さなため息が聞こえます。
近くの席の人が、窓のほうへ体を向けました。
それでも車掌は表情を変えませんでした。
「車内でお飲みになるのは構いません。ただ、走行中は揺れますので」
「うるさいな、俺は迷惑かけてない」
「デッキにお座りいただける場所がございます。お水もお持ちしますので、こちらへ」
説教も、言い聞かせる調子も、ひとつもありませんでした。
デッキの補助席
男性は文句を言いながらも、缶を持ったまま車掌のあとについていきました。
「なんで俺だけなんだよ」
「座って飲めるほうが、お体も楽かと思いまして」
扉の向こうで、車掌が補助席を下ろすのが見えました。
男性が腰を下ろすと、車掌は紙コップの水を渡します。
「よろしければ、こちらもどうぞ」
「……ああ」
扉が閉まると、車内は元の静けさに戻りました。
資料に目を戻すと、ページをめくる音だけが聞こえます。
前の席の人が、途中で止めていた背もたれを起こしました。
しばらくして通りかかったとき、男性はデッキの補助席で眠っていたのです。
膝の上には、空になった紙コップが置かれていました。
終点が近づいて、私は荷物をまとめました。
デッキに出ると、男性はもう起きていて、扉のそばに立っています。
そこへ、車掌が通りかかりました。
「さっきは、すまなかった」
男性は、そう言って深く頭を下げたのです。
「お気をつけてお帰りください」
車掌は同じ調子でそう返し、次の扉へ歩いていきました。
ホームへ降りていく背中を見ながら、私は少しだけ見方を変えていました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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