Share
「2席とも俺の分だ、他を探せよ」自由席を占領した乗客。だが、車掌の一言で状況が一変

空席に置かれた大きな鞄
六年前、新幹線の自由席に乗ったときのことです。
通路を挟んだ二人がけの席に、五十代くらいの男性が座っていました。
隣の空席には、大きなビジネスバッグがどんと置かれています。ひとりで2席を使っている形でした。
デッキにまで人が立つほどの混みようです。
途中の駅から、小さな子どもを連れたお母さんが乗ってきました。
空いた席を探して車内を歩き、その二人がけの前で足を止めます。
「すみません、ここ、空いていますか」
丁寧な聞き方でした。男性は顔をしかめ、鞄を見もしません。
「荷物置いてるの、見れば分かるだろ」
「あ、すみません」
「2席とも俺の分だ、他を探せよ」
吐き捨てるような言い方でした。
お母さんは小さく頭を下げ、子どもの手を引いてデッキの方へ歩いていきます。
子どもは、泣くのをこらえるような顔をしていました。
何人かが眉をひそめていましたが、声を出す人はいません。
私も、膝の上の新聞に目を落としただけでした。
切符を確認しに来た車掌
男性は鞄をどける気配もなく、スマートフォンを眺めていました。
そんな時間が、30分ほど続いたと思います。
通路の向こうから、車掌が切符を確認しながら歩いてきました。
男性の席の横で、ごく普通に足を止めます。
「自由席ですので、お荷物は網棚か足元へお願いいたします」
咎める調子は、まるでありませんでした。何度も繰り返してきた案内の言い方です。
男性の顔から、すっと血の気が引いていきました。
「……いや、これは」
「網棚、お使いになれますよ」
言い返す材料が、何ひとつなかったのだと思います。
網棚に上がった荷物
男性は鞄の持ち手をつかみ、渋々といった手つきで網棚へ押し上げました。
それだけのことに、ずいぶん時間をかけていました。
周りの席から視線が集まり、ひとつ前の人がわざわざ振り返って見ています。
男性は空いた席に自分の上着を置きかけて、途中で手を止めました。
車掌はそれ以上何も言わず、デッキの方へ歩いていきます。
しばらくして、あのお母さんと子どもを連れて戻ってきたのです。
「こちら、お座りいただけます」
「ありがとうございます」
お母さんは通路側の男性にも会釈をして、子どもを窓側に座らせました。
男性は一度もそちらを見ません。窓の外を向いたまま、次の主要駅で降りるまで身じろぎもしませんでした。
降りるときも、こちらへ目を向けることもありませんでした。
車掌が通路を戻ってきたとき、私は小さく頭を下げました。会釈をひとつ返して、次の車両へ歩いていきました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、60代以上・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


