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「あのお菓子の方が、美味しいわ」私の手土産を無視し続けた義母。だが、義父の最期の言葉が空気を変えた

棚に置かれたままの箱
義実家へ行くときは、必ず手土産を持って行くようにしていた。
義母が和菓子を好むと聞いてからは、遠方の名店の最中を選んだ。
電話で予約して、受け取りの日に店の前に並ぶ。そこまでしたことは、一度も言ったことがない。
「よかったら、召し上がってください」
義母は箱を受け取ると、開けもせずに台所の棚へ置いた。
「ああ、そこに置いとくわ」
返ってくるのは、いつもそれだけだった。
お茶の時間になって、ようやく箱が開く。
義母は最中をひとつつまむと、思い出したように義姉の夫の話を始めた。
「あのお菓子の方が、美味しいわ」
「…そうですか」
「そうよ。この前いただいたのなんて、皮がぱりっとしてね。ああいうのを選ぶ人は、違うのよ」
私の持ってきた最中を食べながら、義母は義姉の夫が買ってきた菓子の話ばかりを続けた。
義父は湯呑みを両手で包んだまま、何も言わなかった。
蕎麦が食べたいと言われたときも、同じだった。
片道二時間かけて、名の知れた店の生蕎麦を買って行った。
「あちらの方が美味しかったわ」
茹で上がった蕎麦を、義母は半分残してそう言った。
それでも私は、次の月もまた箱を抱えて玄関に立った。
意地でも、悔しさでもない。ただ、そうするものだと思っていた。
義父が最後に選んだもの
義父が入院したのは、それから数年後のことだった。
もう食事はほとんど喉を通らないと聞いていた。病室に親族が集まった日、義父は薄く目を開けて、枕元の義母に何か言った。
義母が耳を寄せる。
「なあに、お父さん。何が食べたいの」
「…あの子が買ってきた、お菓子が食べたい」
部屋の空気が、ふっと止まった。
義母が振り返る。
その視線が、部屋の隅にいた私のところで止まった。
「…あの子って」
義父は答えず、もう一度だけ、同じ言葉を繰り返した。
義母は何か言いかけて、口を閉じた。それから、膝の上で両手をゆっくり握り直した。
そばにいた義姉が、小さく息を吐く。
「お父さん、ちゃんと見てたのね」
私はその日のうちに、いつもの店へ走った。
翌朝、義父はお菓子をほんの少しだけ口にして、目だけで笑った。
義父が逝ったのは、その数日後だった。
初七日の席で、義母が私に湯呑みを差し出した。手が、少しだけ震えていた。
「…あなたの持ってくるお菓子、お父さんは好きだったのね」
「はい。喜んでいただけて、よかったです」
義母はそれ以上、何も言わなかった。
それから義実家へ行くと、箱はもう棚には置かれない。義母が自分で紐を解いて、皿に並べて出してくれる。比べる相手の名前も、出てこなくなった。
義父にだけは、いまも頭が上がらない。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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