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「特別扱いしろよ」常連だからと部屋を変えるよう求める客。だが、スタッフが毅然とした態度で断った

チェックインの列で
梅雨の晴れ間、私は妻と子どもを連れて、県内の温泉旅館へ出かけました。久しぶりの家族旅行で、子どもは車の中から浮き立っています。
夕方に着いてフロントへ向かうと、チェックインを待つ列がずいぶん伸びていました。
私たちの前には、五十代くらいの男性が一人。
身なりのいい、いかにも旅慣れた風の人です。カウンターのスタッフに向かって、さっきから同じことを繰り返していました。
「予約より広い部屋に替えてくれ。空いてるんだろう」
スタッフは丁寧に頭を下げ、落ち着いた声で「本日はあいにく満室でございまして、ご予約でのお部屋のご案内となります」と応じています。
引き下がらない常連客
それでも男性は引きません。
「俺はここの常連なんだよ。少しくらい特別扱いしてくれてもいいだろう」と、声を張り上げます。
何年も通っていること、いつも同じ宿を選んでいること、顔なじみのスタッフの名前まで持ち出して、なんとか広い部屋を出させようとしていました。
「特別扱いしろよ」
気づけば、そんなやりとりが五分以上も続いています。後ろで待つ私を含め、六組ほどの客が気まずそうに顔を伏せていました。
小さな子ども連れの家族も、荷物を抱えたまま所在なげに立っています。
毅然と、しかし丁寧に
それでも、カウンターのスタッフは態度を変えませんでした。
声を荒げることも、困った顔を見せることもありません。列の空気がどれだけ張りつめても、その物腰は少しも揺らがなかったのです。
「ご常連の皆さまには、いつもご利用いただき心より感謝しております。ですが、特定のお客様だけを特別にご案内することは、公平の点でいたしかねます」
まっすぐに、しかし穏やかに筋を通すその言葉に、男性はしばらく黙り込みました。
周りの視線にようやく気づいたのか、やがて「……まあ、いい」と小さく言って、渡された鍵を受け取ります。
男性が去ると、スタッフはこちらへ向き直り、何事もなかったように「大変お待たせいたしました」と微笑みました。
重く沈んでいた列の空気が、その一言でふっと軽くなります。旅の始まりに感じたわだかまりは消え、私は気持ちよくカウンターへ進みました。ぶれずに筋を通すというのは、こういうことなのだと、妙に感心してしまったのです。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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