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「すみません、そこ空いてますか」リュックで優先席を占領した乗客。だが、他の乗客の一言で状況が一変

二人がけを占めた大きな荷物
通勤電車が一番混み合う時間でした。
肩と肩がぶつかるほどの車内で、私はドアの脇に立っていました。目の前は優先席です。
片側に若い男性がひとり座り、もう片側には大きなリュックがどんと置かれていました。
「すみません、そこ空いてますか」
近くの人が声をかけても、返事はありません。イヤホンをしたまま、スマホから目を離さないのです。
次の駅で、杖をついた高齢の女性が乗ってきました。
ゆっくりと車内へ入り、優先席の前で足を止めます。
杖を持ち替えて、揺れに耐えるように足を踏ん張っていました。
リュックの主は、顔を上げませんでした。
吐き捨てて降りていった背中
見かねた声が上がったのは、発車してすぐでした。
優先席のとなりに座っていた、通勤かばんを膝に乗せた人です。
「席を空けてもらえますか」
穏やかな言い方でした。それでも車内の視線が、いっせいにそちらへ向きます。
リュックの主はイヤホンを片方だけ外し、面倒くさそうに顔を上げました。
「優先席は俺の席だ、関係ないだろ」
言い終わらないうちに、リュックをつかんで立ち上がります。ちょうど電車が速度を落としたところでした。
ドアが開くと、肩で人を押しのけるようにして降りていきます。
誰も何も言えませんでした。空いた席だけが、気まずさごと残されたのです。
差し出された、となりの席
降りる人の流れに押されて、杖の女性は一歩下がるかたちになりました。
空いた優先席との間に、立っている人の背中がいくつも入ってしまったのです。
そのとき、さっき声をかけた乗客が、すっと自分の席を立ちました。
「どうぞ、こちらへ」
女性のすぐ後ろにあった席です。一歩も歩かずに座れる位置でした。
「よろしいんですか」
「ええ、立っていられますので」
女性は杖を握り直し、背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと腰を下ろしました。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
何度も頭を下げる女性に、その人は「いえ」とだけ答えて、吊り革につかまりました。
近くの人が小さくうなずいています。誰かが荷物を持ち替えて、女性の足元に空間をつくりました。
ホームに降りたリュックの男性が、一度こちらを振り返るのが見えました。
けれど、もう誰も彼のほうを見ていません。
車内の目は全部、席に座った女性のほうを向いていたのです。
ドアが閉まり、電車は動き出しました。
「もう一駅、乗るんですよ」
女性が誰にともなくそう言って、少しだけ笑いました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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