Share
「いつまで待たせる、5組も抜かすな」抜かされたと主張する客。だが、客の勘違いが発覚した結果

休日の昼、待合に響いた声
休みの日のお昼どき、友人と入ったファミリーレストランは満席でした。
入口の横に小さなカウンターがあって、そこに順番を書く名簿が置いてあります。
名前を書いて、備え付けの椅子で待つ仕組みです。
私たちの前には、すでに何組も座っていました。
ざわついていた待合が静かになったのは、腰を下ろして五分ほど経ったころです。
五十代くらいの男性が、勢いよく立ち上がってカウンターへ歩いていきました。
「いつまで待たせる、5組も抜かすな」
声が大きくて、奥のテーブル席まで届いていました。
応対したのは、まだ若い店員でした。
「申し訳ございません。順番にご案内しております」
「手際が悪いんだよ。さっきから何組通した」
男性はカウンターを指で叩きます。
それでも店員は声を荒げず、同じ姿勢のまま頭を下げていました。
隣に座っていた友人が、私の袖を軽く引きます。
待合の人たちは、みんな下を向いていました。
子ども連れの母親は、子どもの頭をそっと自分のほうへ寄せています。
見ているだけなのに、こちらまで胃のあたりが重くなりました。
名簿を持ち上げた手
そのとき、店員が名簿を手に取りました。
奥へ下がるのかと思ったら、違いました。
店員は名簿を胸の高さまで持ち上げ、待合にいる全員に見えるよう、紙の面をこちらへ向けたのです。
「お待ちのお客様、順にご案内いたします」
穏やかな、けれど店の端まで通る声でした。
「こちらのお客様は5組目、あと20分ほどのお見込みです」
紙には、書かれた順に番号が振られていました。
男性の名前の横には、はっきりと数字が入っています。飛ばされてなど、いなかったのです。
男性の口が半分開いたまま止まりました。
顔がゆっくり紙のほうへ寄って、それから離れます。
「……そうか」
それきり、言葉が続きませんでした。
静かになった待合で、最初に口を開いたのは、窓際に座っていた年配の女性でした。
「私は7組目です」
穏やかな声でした。誰かを責める調子は、まるでありません。
その隣にいた男性も、続けて言いました。
「ゆっくりで大丈夫ですよ。急がなくていいですから」
店員が深く頭を下げます。上げた顔を見たときには、待合のあちこちで小さな話し声が戻っていました。
怒鳴っていた男性は、自分の席へ戻って腰を下ろすと、膝の上で手を組みました。もう一度も立ち上がりません。
二十分ほどして、店員が名簿を見ながら名前を呼びました。
男性は静かに立ち上がり、案内されていきます。
すれ違いざま、低い声が聞こえました。
「さっきは、悪かったね」
店員は表情を変えず、どうぞこちらへ、と手で先を示しただけでした。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


