Share
「布団干してるんで今日はやめてください」BBQの煙に迷惑していた。だが、普段は温厚な夫の一言で状況が一変

風下のわが家の週末
新築が並ぶ新興住宅地に、私たち家族は越してきた。
隣家との距離は、わずか一メートルほどしかない。
その隣家が、毎年五月から秋にかけて、天気のいい週末になると庭でバーベキューを始めるのだった。
「またあの匂いが来る」
わが家はちょうど風下にあたる。煙と脂の匂いが、干した布団や洗濯物にまっすぐ流れ込んでくるのだ。
バーベキューの気配を感じるたび、私は慌てて家じゅうの窓を閉め、干したばかりの洗濯物を取り込んだ。
せっかくの晴れた週末が、そのたびに台無しになる。
「せめて一言あってもいいのにね」
私がこぼしても、夫はいつも穏やかに笑うだけだった。
もともと争いごとが苦手で、めったに声を荒らげない人なのだ。
(この人が隣に文句を言うなんて、きっと一生ないんだろうな)
そう思っていた、ある晴れた週末のことだった。
温厚な夫が動いた日
その日も私は、朝から布団と洗濯物を目いっぱい干していた。
すると隣家の庭で、また例のごとく椅子が並べられ、炭を熾す準備が始まった。
(ああ、今日もか)
私がため息をついて窓に手をかけたとき、夫がふいに立ち上がった。そのまま庭に出て、まっすぐ隣家との境まで歩いていく。
「布団干してるんで今日はやめてください」
穏やかな、けれどはっきりとした声だった。普段のんびりした夫からは想像もつかない、きっぱりとした一言。
炭に火をつけようとしていた隣家のご主人が、手を止めてこちらを見た。
「あ……いや、その」
ご主人の顔から、みるみる余裕が消えていく。何か言い返そうと口を開きかけ、けれど言葉が続かない。しばらく目を泳がせたあと、ばつが悪そうにうつむいた。
「……すみません。今日はやめときます」
結局その日、隣家のバーベキューは中止になった。並べた椅子も炭も、そそくさと片付けられていった。
私は思わず、干したままの布団を見上げた。煙に追われず、日なたの匂いのままの布団だった。
ほとぼりが冷めたらまた始まるだろう。そう思っていたのに、それきり隣家が庭で肉を焼くことはなくなった。あれから五年、わが家の週末はすっかり静かなままだ。
後日、同じく風下だった裏のお宅の奥さんが、わざわざお礼を言いに来た。「あの煙、実はうちも困っていたんです」と、ほっとした顔で打ち明けられた。煙を我慢していたのは、わが家だけではなかったらしい。
「たった一言で、変わるものなのね」
私が言うと、夫は少し照れくさそうに笑った。今では道で会えば、隣家のご主人のほうから気まずそうに会釈してくる。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


