Share
「タオルが湿ってる、新品を出して!」大浴場の入口で怒鳴り続けた女性。だが、最後に止めたスタッフの一言とは

「タオルが湿ってる、新品を出して!」大浴場の入口で怒鳴り続けた女性。だが、最後に止めたスタッフの一言とは
暖簾の手前で、止まらなかった声
今年の春、友人と二人で温泉旅館に泊まった。夕方、浴衣に着替えて館内の大浴場へ向かうと、暖簾の手前からとがった声が聞こえてきた。
ひとりの女性が、タオルの積まれた棚の前でスタッフを呼び止めている。
「タオルが湿ってる、新品を出して!」
スタッフの女性は表情を変えずに頭を下げ、すぐに交換すると答えた。奥から新しいタオルを抱えて戻ってくるまで、そう長くはかからなかったと思う。
それでも、受け取ったあとの声は止まらなかった。
「遅い。客を待たせる気なの?」
友人と目を合わせ、どちらからともなく足を止めた。
スタッフは言い返すことも、困った顔をすることもなく、そのたびに同じ調子で応じている。
私たちは少し離れたところで、なんとなく息をひそめていた。
後ろに並んでいた人たちも同じで、順番を待つというより、その場が収まるのを待っているようだった。
脱衣所を抜けた先でも、その人の居場所はすぐに分かった。
洗い場では、隣り合った椅子を2つ、タオルで押さえている。
「ここは私が使うから」
近づいた人にそう言い放ち、その一角だけが空いたままになった。
サウナの前に順番を待つ列ができていたときも、女性は横から入っていった。
「早く入りたいから」
待っていた人たちが顔を見合わせる。誰も何も言わなかった。譲ったというより、関わらないことを選んだ空気だけがそこに残った。
せっかくの旅先で、どうしてこんなに気を遣っているのだろうと思った。
露天の縁で、決まりを伝えた人
極めつけは露天だった。女性は持ち込んだ端末を取り出し、外の景色に向けて構えた。
他の客が呼んだスタッフがすぐに近づいてくる。
「申し訳ございません、こちらでの撮影は禁止です」
「誰も写してないからいいでしょう」
女性は端末を下ろさずに言い返した。今度も押し切るのだろうと、その場にいた誰もが思ったはずだ。
けれどスタッフは引かなかった。声を荒らげるでもなく、落ち着いた調子のまま続けた。
「ほかのお客様に安心してお過ごしいただくための決まりです。お続けになるようでしたら、ご退出をお願いすることになります」
女性は何か言いかけて、口をつぐんだ。
少しの間があって、端末をタオルに包み、そのまま奥へ引き上げていった。
張りつめていた空気が、ふっとゆるんだのが分かった。
壁際に寄っていた人たちが元の場所へ戻り、近くにいた人が小さく息を吐く。
最後まで声を張り上げたのは女性のほうだけで、決まりを伝えたその人の声は、始めから終わりまで同じ高さのままだった。
※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


