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「早くしろ、あの輪っかのやつだよ」ドーナツ屋で急かした客。だが、店員の一言で思わず笑い出したワケ
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レジ横に並んだ新商品
大学生の頃、家の近くのコンビニで二年ほどアルバイトをしていました。
ある年の秋、新商品としてドーナツの販売が始まりました。
レジ横のショーケースに、8種類がずらりと並んだのです。
チョコ、砂糖、きなこ、抹茶、いちご色。研修では味の名前を全部覚えさせられました。
最初は売れ行きもぼちぼちでしたが、一か月もすると、お客様のほうから声をかけられるようになりました。
「ドーナツ、まだある?」
その日は夕方のシフトでした。店内は空いていて、私はショーケースのガラスを拭いていたのです。
自動ドアが開いて、若いカップルが入ってきました。二人とも、少し急いでいる様子です。
男性のほうが、ショーケースの前で足を止めました。
「ドーナツを頂戴」
「かしこまりました。どちらにしましょうか」
種類が多いので、こう確認するのが決まりでした。返ってきた声は、思ったより強かったのです。
「早くしろ、あの輪っかのやつだよ」
私はショーケースに目を落としました。
チョコも、砂糖も、きなこも、抹茶も、真ん中に穴が開いています。つまり、どれも輪っかでした。
8種類とも、全部
適当に選んで渡すわけにもいきません。正直に言うしかありませんでした。
「申し訳ありません。実は、こちらは8種類とも全部、輪っかなんです」
そう言って、ショーケースを端から端まで手で示しました。
男性が、ガラスに顔を近づけます。隣の女性も、身をかがめて覗き込みました。
数秒の沈黙のあと、女性が先に噴き出したのです。
「ほんとだ」
「……ほんとだな」
男性がそう言って、二人で顔を見合わせて笑い出しました。
さっきまでの強い口調が、どこかへ消えています。
「悪い、待ち合わせに遅れそうでさ。つい急かした」
「いえ、とんでもないです」
それから二人は、ショーケースの前で相談を始めました。
「じゃあ、この輪っか」
「私はこっちの輪っかにする」
「輪っかって言い方、やめろって」
会話がおかしくて、私も声を出して笑ってしまいました。
結局、チョコのものと砂糖をまぶしたものを2つ、袋に入れてお渡ししました。
いつの間にか後ろに並んでいた年配のお客様も、肩を揺らしています。
「わしにも輪っかを一つもらおうかね」
その一言で、店内がまた笑いに包まれました。
「ありがとうございました」
二人は袋を提げて、笑いながら店を出ていきました。
ドアが閉まる直前、男性が振り返って軽く手を上げたのが見えたのです。
あの日から、店長も先輩も、ドーナツのことを輪っかと呼ぶようになりました。
翌週の発注書に、輪っか多めと書かれていたときは、さすがに笑いました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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