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「捨てた。あんなの要らないだろ」母の形見の裁縫箱を勝手に処分した夫。1週間後、同じ理屈を返した結果

退院した部屋から消えていた物
2週間の入院を終えて、家に帰った。
玄関を上がって、まず自分の部屋の扉を開けた。そこで足が止まった。
本棚の一段が、まるごと空いている。窓際に置いていた籐のかごも、その中に入れていた手紙の束も、母の形見の裁縫箱も、どこにもなかった。
手紙は、亡くなった母が私の結婚前に送ってくれたものだった。裁縫箱の中では、母が使っていた鋏がまだ切れた。
「ねえ、私の物、どこ?」
台所にいた夫は、振り向きもしなかった。
「捨てた。あんなの要らないだろ」
私のいない間に、私の部屋に入って、私の物だけを選んで捨てたのだ。ゴミの日は、入院した翌週だった。手術の傷がまだ痛む体で、私は空いた棚の前に立っていた。
「勝手に捨てることないでしょう」
「勝手に捨てた、聞けばダメと言うだろ」
悪びれる様子はなかった。施設に入った義母の荷物は、押し入れひとつ分そのまま残してある。
あれには指一本触れないのに。入院中、下着を持ってきてくれと頼んだときは「どこにあるか分からん」と言った人が、私の物のありかだけは正確に把握していた。
同じ理屈を返した土曜日
1週間後、夫が釣りに出かけた土曜日だった。
私は夫の部屋の押し入れを開けた。20年ぶん溜め込んだ雑誌の山が、天井近くまで積み上がっている。棚には集めていた模型の箱が並んでいた。
手は震えなかった。雑誌は紐で縛って古紙回収に出し、模型は箱ごとリサイクル店へ持っていった。台車を借りて、三往復した。夕方には、押し入れの中は空になっていた。
夕方、玄関から声が飛んできた。
「おい、押し入れの雑誌がないんだけど」
「捨てたよ。私も、必要ないと思ったから」
夫は釣り竿を持ったまま、廊下で止まった。口が半開きになっている。
「なんで勝手に……聞けよ、普通」
「聞いたら、ダメって言うでしょう」
そこから、何秒も声が出なかった。二週間前に自分が言った理屈が、一字も変えずに戻ってきたのだ。夫の顔から血の気が引いていくのが、廊下の照明の下ではっきり見えた。
「……あれ、集めるのに何年かかったと思ってる」
「私の裁縫箱は、母の形見だったけど」
夫は釣り竿を床に置いて、空になった押し入れの前に膝をついた。それきり、何も言わなかった。
あれから半年、夫は私の部屋の扉を開けない。掃除機をかけるときも、廊下から「入っていいか」と声をかけてくる。
先日、私の机に置いてあった紙袋に、夫が手を伸ばしかけた。
「触らないで」
「……はい」
手はすぐに引っ込んだ。夫はそれきり、私の部屋の前を通るときも足を早めるようになった。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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