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「この椅子、あの人の席なの」広い庭に椅子がひとつ。毎日、庭で女性が座っていた理由とは

「この椅子、あの人の席なの」広い庭に椅子がひとつ。毎日、庭で女性が座っていた理由とは
庭にひとつの椅子
以前住んでいた町での話です。
その辺りは、新しいアパートと工場地帯、古くからの住宅が入り混じった、少し不思議な区画でした。
犬を飼っていた私は、毎日その町を散歩して回っていました。
歩いて十分ほどの場所に、古くて大きな一軒家があります。
ずいぶん広い庭なのに、そこにあるのは木の椅子がぽつんとひとつきりで、花も物置も、ほかには何もありません。
その椅子に、いつも70代くらいのおばあさんが座っていました。
季節が変わっても、雨の降る日でも、判で押したように同じ服。
朝の7時に通っても、昼前に通っても、その人はそこにいました。
話しかけたことはありません。ただ、視線の先に何があるのかが、日ごとに気になっていきました。
ある日、思いきって門の前で足を止め、犬とともに小さく会釈をしてみました。
するとおばあさんは、ゆっくりとこちらを向いて、静かに口を開いたのです。
「あなた、犬を連れて、よく通るわね」
「はい。毎日、この道を散歩させていただいています」
「そう。いつも、朝の早くにね」
「ええ。今日は少し、遅くなってしまいました」
誰も座らない席
思いがけず言葉を交わせたことに、少しほっとして、私は広い庭を見渡しました。
「立派なお庭ですね。お手入れも、大変でしょう」
おばあさんは、椅子にそっと手を置いて答えました。
「この椅子、あの人の席なの」
その口ぶりに、私は返す言葉を失いました。
椅子は、ずっと空いたままでした。
「どなたか、お待ちなんですか」
「もうすぐ、帰ってくるから。ここで待っていれば、いいの」
それ以上は、尋ねられませんでした。
おばあさんはまた庭の一点へ視線を戻し、それきり、私のことなど見えていないようでした。
その日から、あの空っぽの椅子が、頭から離れなくなりました。
おばあさんはいつも、来るはずの誰かを待ち続けています。
やがて私は引っ越しが決まり、その町を離れました。
最後にあの家の前を通ったときも、おばあさんは変わらずそこにいて、庭の一点を見つめていました。
あの椅子の主が、いつか本当に帰ってきたのか、確かめるすべはもうありません。
ただ、雨の降る日に見た、ぬれそぼった椅子の背もたれの黒い光沢だけが、今も目に焼きついて離れないのです。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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