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「電話だけは絶対に取らない」どんなに忙しくても電話を取らない先輩。上司や同僚が何も言わない環境に抱えた葛藤

鳴り続ける電話と、動かない先輩
入社してしばらく経った頃、職場に一人気になる先輩がいた。
その職場は一日に20件、多い日で30件ほどの電話が入る。
取引先や顧客からの問い合わせがほとんどで、対応が遅れると相手を待たせてしまう。
だからデスクにいるスタッフは皆、電話が鳴れば手を止めて受話器を取るのが暗黙のルールだった。
ところがその先輩だけは違った。
電話が鳴っても顔を上げない。
手元の書類を見つめたまま、まるで聞こえていないかのように座り続けるのだ。
急いでいるわけでもない別の仕事を始めたり、隣の同僚と雑談を続けたりしながら、呼び出し音が止まるのをただ待っている。
最初は偶然かと思った。
手が離せない作業の最中だったのかもしれない。でも一週間、一ヶ月と観察するうちに、これが意図的な行動だと気づいた。
「電話だけは絶対に取らない」
そう決めているとしか思えなかった。
3年間で数えるほどしか見なかった光景
その職場に3年間勤めたが、先輩が受話器を手にした場面はほんの数回しか記憶にない。
周りのスタッフは当然、その分だけ多く電話を取ることになる。
忙しいときに鳴っても、自分の手を止めて対応しなければならない。
先輩のデスクから伸びてきた電話を代わりに受けながら、少しずつ何かが積み上がっていく感覚があった。
不思議だったのは、誰もそれを直接指摘しなかったことだ。
上司も見て見ぬふりをしていたし、同僚たちも「あの人はそういう人だから」と笑って流していた。
先輩のキャリアが長かったせいか、電話以外の仕事ではそれなりに動いていたからか、理由は分からない。
ただ、3年が過ぎた頃には自分の中でひとつ答えが出ていた。
嫌な仕事を誰かに押し付け続けても、職場では咎められない場合がある。
そしてそういう状況がしばらく続くと、周りがそれを「普通」として受け入れてしまう。
退職の挨拶を済ませて職場を出た日、晴れやかな気持ちとは少し違う感情が胸に残った。
先輩は最後まで電話を取らなかった。
送別の場で「お疲れさま」と声をかけられたとき、ふと最初の頃の自分を思い出した。
鳴り続ける電話を反射的に取りに行っていた、入社したての自分の手の動きだ。
褒めるのと負担を肩代わりさせるのは違うはずだ。
「やってくれる人」として固定化されていく感覚だけが残った。
釈然としないまま終わった3年間だった。
それでも、職場の不公平というものが、特別なルール違反ではなく日々の小さな選択の積み重ねでできていることだけは、はっきりと知ることができた。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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