Share
「帰るわよ、お見送りは?」回転寿司で出会ってしまった客。新人の私が遭遇した最悪な要求とは

案内した瞬間に始まった呼び出し
回転寿司チェーンでパートを始めて、まだ数日。
私は60代の新人で、レジ操作も注文端末も覚え立てだった。
客足の落ち着いた時間帯に、一人で来店した中年の女性客を席へと案内した。
座るなり、女性は私の顔をじっと見上げてくる。値踏みするような視線だった。
「お姉さん!お茶!?」
大声だった。空いている店内によく響いた。私は急いで卓上の湯のみと給湯口を指し、こちらを湯のみで押すとお湯が出ますと説明した。
すると彼女は片眉を上げて言った。
「やってよ」
「かしこまりました」と頭を下げ、お湯を注いだ。
私は自分の声が少し震えていることに気づいた。
2分おきに私だけを呼ぶ声
そこから2分おきに呼ばれた。
寿司は一つ一つ運んできて。
ガリをお皿に取り出して。醤油こぼしちゃったから拭いて。
注文端末で出てきたお皿を、わざわざレーンから降ろして手渡しで運べと命じてくる。
隣の席にも他のホール担当はいる。だが彼女は他のスタッフを呼ばず、私だけを名指した。
店内が混み始め、レジに列ができても、彼女の声だけが店内を貫いた。
「お姉さん!ちょっとお姉さん!」
厨房から顔を出した店長と目が合った。私は一礼して、ホール業務を別のスタッフと交代させてくださいと小声で願い出た。
新人のうちにこの客から距離を取らなければ、明日からシフトに入れなくなる予感があった。
店長は無言で頷き、私はバックヤードへと下げてもらった。胸の奥はじりじりと焼けるようだった。
レジで放たれた最後の一言
会計の時間になり、彼女は伝票を片手にレジへ立った。
担当を外れた私もレジの応援で立ち会っていた。代金を受け取り、お会計が済むと、彼女はバッグを肩にかけ、当然のように私の顔を見上げて口を開いた。
「帰るわよ、お見送りは?」
店長と他のスタッフの視線が私に集まった。
私は「ありがとうございました」と頭を下げ、自動ドアの外まで彼女を見送った。
彼女は満足げに振り返らず歩いていった。戻ってきた私の手は冷たく、エプロンの裾を強く握っていた。怒鳴られたわけでも罵倒されたわけでもない。
ただ、新人と分かって入店から会計まで全工程を私一人に投げ続けた客に、心がじりじりと削られていた。新人を狙って端から端まで使い切る客がいる。
文句を言われる筋合いのない命令を、新人だからこそ受け流すしかない。混雑が落ち着いた頃、店長が「最初に当たる客じゃなかったね」と短く声をかけてくれた。
労いの一言だけで、声が出そうになった。レーンで光る寿司皿の明滅を見ながら、口の中の苦味は閉店までずっと消えなかった。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、60代以上・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
CHARACTERS
登場人物から探す
THEME
テーマ・シチュエーションから探す
ENDING
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事


